脳はなくても記憶する粘菌、モジホコリ

2012.10.09
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ネバネバの痕跡を残すことで自分がどこにいたのかを“記憶”する粘菌の一種モジホコリ、学名:フィサルム・ポリセファルム。

Photograph courtesy Audrey Dussutour
 最新の研究によると、単細胞生物の粘菌(変形菌)は、ある種の“記憶”を活用している可能性があるという。 オーストラリア、シドニー大学の研究チームが粘菌の一種モジホコリ、学名:フィサルム・ポリセファルム(Physarum polycephalum)を用いて実験を行っていたところ、一度たどった移動経路を避けるパターンに気が付いた。研究チームは、一種の“外化空間記憶”を利用して移動しているのではないかと考えた。

 研究チームの一員で同大学の生物学者クリス・リード(Chris Reid)氏は、「モジホコリが移動すると、ネバネバした粘液の痕跡が残る。後でこれを検知することで、“既に通ったことがある場所”を認識できるようになっている」と話す。

 この仮説を検証するため研究チームは、ペトリ皿にU字型の障害物を置き、その手前にモジホコリを配置した。障害物の向こう側にあるエサに向かって一度は直進するが、障害物は越えられない。手前に戻ってきたモジホコリは、自分の痕跡を避けて障害物を回り込み始める。制限時間の120時間以内に、実にサンプルの96%が糖分まで移動することができた。

 しかし、ペトリ皿のゲルの表面に先に粘液を塗っておくと、モジホコリは自分の痕跡を識別できない。制限時間までにゴールにたどり着いたのはわずか3分の1だけになり、元の場所に戻るのも10倍の時間がかかった。

 モジホコリには、ほかの粘菌種が残した痕跡を認識して反応する能力もあるという。

 リード氏は、「自分のフェロモンを残して、食物への移動経路を示すアリと似ている。原始的生物は外化空間記憶を活用して、私たちの脳が今日直面している問題と同種の問題を解いている可能性がある。記憶の進化の出発点だ」と話す。

「これまでの研究で、モジホコリが迷路を解いたり、周期的事象を予測したりできると判明している。このような点をすべて踏まえて、新たな“知的生命体”の仲間を歓迎したいと思う」。

 今回の研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に10月8日付けで掲載されている。

Photograph courtesy Audrey Dussutour

文=Sasha Ingber

  • このエントリーをはてなブックマークに追加