動物は鬱になるのか

2012.10.05
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
チンパンジーは表情で悲しみを表現できるという。

Photograph by Michael Nichols, National Geographic
 動物は鬱(うつ)になるのだろうか? 一部の研究者は、人間を含めた哺乳類は脳内の感情を司る回路構造が共通していると考えている。鬱状態の動物を研究すれば、人間にも応用できる成果が得られる可能性があるという。 アメリカ、ペンシルバニア大学で神経科学の助教授を務めるオリビエ・バートン(Olivier Berton)氏のチームは、周囲の環境や仲間への関心を失った齧歯類(げっしるい)、霊長類、魚類を研究している。 動物の鬱について、バートン氏へのインタビューから考察していきたい。

◆動物は鬱になる?

 人間の場合は、罪悪感を抱いたり、死について考えたり、喜びを失ったりするなど、非常に主観的な症状から診断する。しかし、人間以外の動物はこの種の経験があっても表現できないので、正確な診断は難しい。

◆動物の鬱は、どのような症状から判断できる?

 例えば、快感を伴う行動に対する興味がなくなる「無快感症」が現れる。研究では、大好物の食べ物や性行為に対する関心度を分析した。また、集団内でほかの個体とどのようにして社会的に関わり合っているのかを分析したうえで、睡眠パターンと日中の行動の変化も観察した。ストレスの多い状況にどの程度耐えられるかも、大いに参考になる。

◆鬱と判断しやすい動物は?

 人間以外の霊長類の分析結果が最も信頼できる。経験豊富な研究者が行動を観察すれば、サルの鬱状態は見分けられる。サルは人間と感情表現の方法が似通っているので、表情や視線から悲しみを感じているかどうかがわかる。

◆研究室の環境で、正しい分析はできるのか?

 研究室の霊長類や齧歯類は、ほとんどが飼育下という点は問題だ。野生の生息地と比べて不十分な環境で生育されているため、鬱のような変化が現れた可能性がある。現時点では、野生と研究室での情動行動の違いに関して十分なデータがない。

◆自然界では、動物はどのように鬱に対処している?

 わからない。体系的な研究はほとんどないからだ。自然界では、行動障害の動物は生存率が低下する。鬱に対処できないと、ほかの動物に簡単に捕食されてしまう可能性はあるだろう。

◆飼育下の動物も鬱になる?

 獣医師が犬の行動障害の治療として、抗鬱薬を処方するケースは多い。例えば飼い主が家を離れると、孤独からストレスを感じ、血が出るまで自分の身体を引っかいたり、ドアをかじったりするなどの異常行動に出る場合がある。このような行動は、犬の精神疾患の症状と考えられている。人間用の治療が犬にも効果的だと推測されているが、体系的な研究は不足している。

 研究の詳細は10月5日発行の「Science」誌で発表された。

Photograph by Michael Nichols, National Geographic

文=Sasha Ingber

  • このエントリーをはてなブックマークに追加