98年前に海流調査の一環として放流された瓶の中から見つかったメッセージ。

Photograph courtesy Marine Scotland
 北海を漂うこと98年、簡素なガラス瓶に入った紙切れが2012年4月、シェトランド諸島付近でスコットランドの船長に網で引き上げられた。しかしその紙切れは、失恋の手紙でもなければ、孤島に置き去りにされた船員のSOSでもなかった。 そこにはこう記されていた。「この葉書を発見した場所と時をご記入の上、お近くの郵便局からご投函ください。折り返し、これが海に放流された場所と時をお教えします。われわれの目的は、北海の深層海流の方向を調査することです」。ロマンチストには期待はずれな内容だ。

 アンドリュー・リーパー(Andrew Leaper)氏によって発見され、これまでに回収された最古のものとして8月30日にギネス世界記録に認定されたこの“瓶入り手紙”は、約100年前に科学実験のために放流された。グラスゴー航海学校(Glasgow School of Navigation)のC・ハンター・ブラウン(C. Hunter Brown)船長が、近海の潮流を調べる目的で、1914年6月10日に海に流した1890本のうちの1つで、「646B」という番号が割り振られていた。

「漂流瓶は、20世紀初頭の海洋学者に重要な情報をもたらし、スコットランド近海の水循環パターンを知る手がかりになった」と、政府機関スコットランド海洋研究所(Marine Scotland Science)のビル・タレル(Bill Turrell)氏は声明の中で述べている。

 アバディーンにあるスコットランド海洋研究所では、今もブラウン船長の日誌を保管し、新たな情報を書き加えている。タレル氏によると、放流地点からわずか15キロのところでリーパー氏に発見された瓶は、ブラウン船長の実験で回収された315本目の瓶になるという。すべての瓶には「海底辺りを流れるよう特別な重りがつけられていた」とタレル氏は述べているが、これはトロール漁船の網に引っかかるか、いずれ浜辺に打ち上げられるようにするためだ。

 奇しくも、それまでの瓶入り手紙の最古記録は、マーク・アンダーソン(Mark Anderson)氏が2006年に発見した1917年の手紙だったが、アンダーソン氏はリーパー氏の友人で、航行していた船も同じ「コーピアス(Copious)号」だった。「これは驚くべき偶然だ。宝くじに二度当たるようなものだ」とリーパー氏は声明の中で述べている。

◆“瓶入り手紙”の歴史

 98年前のものが見つかったといっても、むろんそのはるか以前から人々はメッセージを瓶に入れて流してきた。紀元前310年ごろ、ギリシャの哲学者テオプラストスは、地中海に大西洋の水が流入していることを証明するため、封をした瓶を海に投げ込んだという。ただし、拾った人から返事が来たという記録はない。

 16世紀には、イングランドの女王エリザベス1世が、漂流瓶には自国のスパイや艦隊からの秘密連絡が含まれているかもしれないとの考えから“海洋瓶の開栓係”を任命し、それ以外の者が瓶を開ければ死罪とした。

 18世紀には、マツヤマ・チュウノスケ(Chunosuke Matsuyama)という日本の船乗りが、宝探しの航海途中に船が難破し、43人の乗組員とともに南太平洋の島に打ち上げられた。マツヤマはココナツの木切れにメッセージを彫りつけ、瓶に入れて海に流した。瓶は1935年になって、おそらくマツヤマが生まれたのと同じ村で発見された。

 20世紀には、第1次世界大戦で死に瀕した兵士たちが、愛する人々への最後のメッセージを瓶に入れて流した。大戦中の1915年、魚雷を受けて沈没した客船ルシタニア号に乗っていた旅客の1人が、急を告げるメッセージを海中に投じている。ある報告によると、そこにはこう書かれていたという。「数名の人たちとまだデッキにいる。最後のボートが出発していった。われわれはみるみる沈んでいく。近くにいる人たちが司祭とともに祈っている。最後は近い。おそらくこの手紙は・・・」。

◆研究目的の漂流瓶

 漂流瓶は、海洋学者が世界の海流を調べる目的で現在も用いられている。2000年には、カナダの海洋科学研究所の気候学研究者エディ・カーマック(Eddy Carmack)氏が、北アメリカ北部周辺の海流調査を当初の目的として「ドリフト・ボトル・プロジェクト」(Drift Bottle Project)を開始した。

 開始から12年間に、カーマック氏のチームは世界各地で約6400本の瓶入りメッセージを船から放流した。そのうち全体の約4%に当たる264本が発見、報告されている。

「中には驚くべき経路をたどった瓶もある」とカーマック氏は述べる。アメリカ、アラスカ州北部とカナダ北西部に面するボーフォート海に投じられた3本の瓶は、海氷の中に閉じ込められたという。5年後、北極の氷の融解によって、瓶ははるばる北ヨーロッパまで押し流された。また別の瓶は、南極大陸を1.5周した後に、オーストラリアのタスマニア島に流れ着いた。メキシコからフィリピンまで流れていった瓶もある。そのほか、カナダのラブラドル海とバフィン湾の開発によって流れ出た石油や残骸が、アイルランド、フランス、スコットランド、ノルウェーの海岸に打ち寄せられていることも漂流瓶によって明らかになった。

 しかし、このプロジェクトには科学研究以外の側面があるとカーマック氏は言う。「この研究のかなめは、人々と海流を結びつける点にある。われわれは世界の隣人たちと漂流瓶1本分しか離れていないことがわかる」。

Photograph courtesy Marine Scotland

文=Jeremy Berlin