世界の大停電、原因と対策を探る

2012.09.06
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1965年11月、停電に陥ったアメリカ、ニューヨーク。満月が摩天楼の輪郭を不気味に浮かび上がらせている。

Photograph by Bob Gomel, Time Life Pictures/Getty Images
 昨年の震災に伴う停電の記憶も新しい今夏、インドでは6億7千万人を闇に閉じ込める史上空前の大停電が発生した。絶えず電力が供給され続けることが前提になっている現代社会では、大規模停電は各国共通の懸念であり、世界規模でシステムが麻痺する可能性さえはらんでいる。 大規模な停電には嵐や熱波、太陽フレアなど、さまざまな原因が考えられる。しかし、背後には必ず、送電網の機械的、人的な脆弱性が潜んでいる。非営利研究機関「米電力中央研究所(EPRI)」のクラーク・ゲリングス(Clark Gellings)氏は、「送電システムは電線、変圧器といった多くの部品で構成され、すべてが緊密に結び付いている。つまり、故障する恐れがある箇所も多いのだ」と説明する。「部品は壊れるし、人はミスを犯す。システムは一定の混乱に耐えられるよう設計されているが、あるレベルを超えると崩壊してしまう」。

 今から50年以上前、既に「国際的」な大停電が起きている。

 1965年の“北アメリカ大停電”は、カナダのオンタリオ州ナイアガラの発電所から発生した。冬の寒さで急上昇した電力需要などが原因という。停電はニューヨーク州やその周辺まで広がり、20万平方キロ余りの範囲が被害を受けた。当日の「New York Times」紙は、「4分足らずの間に、暗闇はマサチューセッツ州に到達し、ボストンを飲み込んだ」と伝えている。「まるでドミノ倒しのように、南はコネティカット州、北はバーモント州、ニューハンプシャー州、さらにカナダへと、ものすごい速さで闇に包まれた」。

 同じ米北東部とカナダ南東部では2003年にも、5000万人が影響を受けた大規模な停電が発生している。アメリカ・カナダ停電タスクフォース(U.S.-Canada Power System Outage Task Force)の報告書によると、この停電のきっかけは送電線と樹木の接触だった。設備故障や人的ミスも重なり、大規模な災害に発展してしまったという。

 一つの小さな不具合が広範囲の停電につながった2003年のような事例を防ぐには、センサーで電圧と電流を監視し、電力システムの正確な状態を常に把握する必要がある。また、問題が発生した送電線を使用停止にするなど、迅速な対応も不可欠だ。

「激しい氷雨などで送電線に障害が発生したり、送電塔が破壊されたりした場合、トラブルが連鎖していく可能性がある。池に投げ込まれた小石の波紋が広がるのと同じだ。連鎖の範囲と深刻度を正確に理解し、適切な対策を講じる必要がある」とEPRIのゲリングス氏は述べる。

 2006年11月にヨーロッパ8カ国を巻き込んだ停電は、完全に人為的な判断ミスが原因だった。

 ドイツ北部の造船所から初の航海に向かうクルーズ船「ノルウェージャン・パール」の安全航行を図るため、電力会社E.ONはエムス川の上に架かる38万ボルトの送電線を停止した。その結果、ドイツ内の他の送電線が過負荷になり、連鎖的にドイツ、フランス、ベルギー、イタリア、スペイン、オーストリア、オランダ、クロアチアの一部地域が停電に陥った。この大停電を受け、ヨーロッパ全体でより統一的な送電政策を導入する必要性を指摘する声も上がった。

 ブラジルや中国、インドなど、急成長を遂げている国では電力需要が急増、供給を上回る状況が生まれており、各国の電力システムにとって大きな課題となっている。

 2008年2月、過去50年で最悪の大雪に襲われた中国南部の湖南省では、鉄塔など送電網の一部が壊れ、一帯は停電や断水に見舞われた。特にチン州市は被害が大きく、約450万人が2週間近く電気のない生活を強いられた。中国当局は2月5日、インフラの復旧にあたった電気技師11人が命を落としたと発表している。

 深刻な被害を受けた冬を契機に、中国は電力システムの監視と情報収集を強化し、初期の障害が広範囲に影響を及ぼす前に対処できる態勢を目指した。ゲリングス氏は、「数年前から中国を訪れているが、このような技術の獲得スピードには驚いた」と話す。

 2009年11月10日、ブラジルとパラグアイの国境に建設されたイタイプダムの大型水力発電施設が機能を停止し、両国合わせて6700万人が電気を利用できなくなった。ブラジルのエネルギー当局によると、暴風雨のために主要な変圧器が複数ショートし、世界第2位の規模を誇る水力発電所からの送電が完全に遮断されたという。

 ブラジルでは二大都市のサンパウロとリオデジャネイロを含め人口の約3分の1が4時間影響を受け、パラグアイでも全土で短時間の停電が発生した。

 インドでは今年、15時間続いた7月30日の停電がようやく復旧した直後の31日午後1時、はるかに大規模な停電がインドの北部と東部を襲った。政府当局は電力回復を急ぎ、原因解明に向けた特別委員会を発足させたが、原因についての議論は今も続いている。年9%の経済成長を続けるインドでは、以前から需要に追いつかない電力供給不足に関する懸念が表明されていた。

 マンモハン・シン首相は、配電網の容量と信頼性を高めるため、4000億ドル(約31兆円)の投資を呼びかけている。しかし、超大型石炭火力発電所の建設計画「ウルトラメガパワープロジェクト」はコスト面で難航しており、世界最大の原子力発電所建設プランも住民などの反対を受け遅延している。

Photograph by Bob Gomel, Time Life Pictures/Getty Images

文=Richard A. Lovett

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