イカの虹色の皮膚、色変化の仕組み解明

2012.08.22
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皮膚細胞、「虹色素胞(にじしきそほう)」の伸縮によって体色を自在に変化させるアメリカケンサキイカの一種。

Photograph courtesy Roger Hanlon
 イカの皮膚の色を瞬時に変化させるのはその神経細胞の働きであることが、新たな研究で判明した。 イカのメタリックな輝きは、微小な板状構造の集まりを持つ皮膚細胞「虹色素胞(にじしきそほう)」が光を反射して生まれる。虹色素胞は、神経系の胚組織である色素胞の一種で、反射した光は短波長の青色となる。

 共同研究者でアメリカ、マサチューセッツ州にあるウッズホール海洋生物学研究所の神経動物行動学者パロマ・ゴンザレス・ベリード(Paloma Gonzalez-Bellido)氏は、「石鹸の泡や、海面に浮かぶ薄い油膜などと同じ効果を生む」と話す。

 しかし、イカが虹色素胞の“オン/オフ”を切り替える正確な仕組みは解明されていなかった。

 今回の研究では、イカの皮膚細胞に電極を取り付ける新しい手法を導入。神経に電気的な刺激を与えると、虹色素胞の色や輝きが変化する様子を突き止めた。イカの皮膚に小さな穴をあけて神経束に電極をつなぎ、神経細胞に沿って電気パルスを送信した。

 同じウッズホール海洋生物学研究所のトレバー・ウォーディル(Trevor Wardill)氏は、「およそ15秒で色が変わる。その間の変化は、まるで万華鏡のようだ」と話す。「赤から始まり、黄色、緑色と順に変わって、最後には青色になる」。

 今回の実験から、虹色素胞の制御に特化した神経細胞の存在が突き止められた。「虹色素胞を個別にコントロールする能力が脳に備わっているようだ」とゴンザレス・ベリード氏は語る。ウォーディル氏は、「次の大きな研究課題は、個々の色や輝きを変化させる神経細胞の働きだ」と述べている。

 研究に用いられたのはアメリカケンサキイカの一種だが、ウォーディル氏によると、虹色素胞の伸縮によって体色を変化させるのはイカやタコで普遍的な習性だという。

 しかし、皮膚の神経細胞や筋肉の構造が複雑なので、コウイカやタコなど近親種でもプロセスが同一かどうかはまだわかっていない。

「コウイカは、海のカメレオンと呼ばれるくらい体色の変更能力に優れている。皮膚に刺激を与えて色と偏光を変化させることは可能だが、そのプロセスは非常に複雑だ。(実験に使った)このイカの方がシンプルで扱いやすい」とウォーディル氏は述べている。

 研究チームは現在、神経繊維の端にシナプスがないか調査している。色の輝きのオン/オフを切り替える神経伝達物質が神経繊維から放出する役割がある。

 ウォーディル氏は、「0.5ミクロン単位まで調べたが、まだ末端は見つからない」と話す。あるいは、神経に沿った特定の場所で放出されている可能性もある。「どこか突き止めれば、プロセスがより詳細に判明するだろう」。

 イカの生態で皮膚が果たす役割は、まだ十分に解明されていない。「攻撃の意思を示したり、カモフラージュとして、恐らく日常的に活用しているのだろう。怒ると非常に鮮やかになるが、周囲にどんなメッセージを伝えているか正確に理解するのは難しい」とウォーディル氏は語る。

 イカは皮膚の色を変化させることはできるが、視覚器官は色を識別できない。眼の中にある単一の視色素が認識するのは、主に青色の光だけだ。ウォーディル氏は、「海で20メートルも潜れば、ほとんどの色は判別できなくなる。イカにとって、色はそれほど重要ではないのだろう」と推測している。

 今回の研究結果は、「Proceedings of the Royal Society B」誌オンライン版で8月15日に発表されている。

Photograph courtesy Roger Hanlon
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