土星の衛星に巨大な地滑り跡

2012.07.31
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2007年にカッシーニが撮影した土星の衛星イアペトゥス。右下枠内、イアペトゥスのマルン(Malun)クレーターは、底から35キロという驚くべき高さでそびえている。

Images courtesy SSI/NASA
 土星の衛星イアペトゥスの凍った表面には、NASAの探査機カッシーニにより、30カ所もの巨大な地滑り跡が発見されているという。巨大隕石の衝突で引き起こされた可能性が高いこれらの地滑りは、地球上の地滑りのメカニズム解明に特別な光を投げかけてくれるかもしれない。 ミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学で地質・地球物理学の博士課程に在籍し、今回の研究を率いたケルシ・シンガー(Kelsi Singer)氏によると、イアペトゥスの表面には、クレーターの切り立った崖や、エベレスト山の2倍以上になる高さ19キロもの山脈がそびえ、地滑りにはほぼ理想的な環境だという。「イアペトゥスを宇宙から見ると、赤道に沿って山脈が突き出しているのがはっきりとわかる。おかげでこの氷の衛星はクルミのように見える」。

 この衛星は「太陽系の主な天体の中でも、大きさに比べて表面地形の高低差が最も激しい天体に属する。火星を除けば地滑りが最も多い」とシンガー氏は話す。

 シンガー氏の研究チームは、カッシーニの地滑り写真を分析した結果、クレーターの壁や山の尾根から崩落した凍った岩屑が驚くほど遠くまで地表を水平方向に移動していることに気づいた。その距離はときには80キロにも及ぶ。落下した高さの20~30倍の距離になる。

「地滑りの規模はとてつもなく大きい。地面に立ってみると、(全部の崖が)見えないほどだ」。

◆急激な発熱が長距離の地滑りを生む?

 地球上の大半の地滑りは、崩落した高さの2倍の距離ほどしか流れ出ない。しかし、長距離運動地滑り、あるいはシュトゥルツストローム(sturzstrom)と呼ばれる地滑りは遠くまで滑り、イアペトゥスで見られる地滑りに似た動きをする。

 地球上の長距離運動地滑りは長く科学者を悩ませてきた。転がり落ちる岩や氷は摩擦で止まってしまうはずだからである。

 イアペトゥスでは、未知の要因が氷のなだれの摩擦を減少させていると、研究チームは考えた。

 原因として考えられるのは、フラッシュヒーティングと呼ばれる急激な発熱現象だ。フラッシュヒーティングに際しては、地滑りの摩擦が氷を熱し、滑りやすくして、落ちていく岩屑の速度を高めるのだ。

「移動がとても速いため、(熱が)周囲の物質に放散する時間がなく、狭い領域に集中する。そのため熱が十分に上がり、冷たく固い氷をさらに滑りやすくする」とシンガー氏は説明する。

◆地球の地滑りの謎を解く

 シンガー氏の研究チームが最も興奮したのは、イアペトゥスの地滑りのあり方が、地球の同様の自然現象の理解に役立つという点についてだった。

「長距離運動地滑りは、人口の多い地域で発生すると、多くの人々に甚大な被害を与えることのある天災だ。したがって当然、発生のメカニズムについてもっと詳しく知りたいのだが、イアペトゥスの地滑りのおかげで、考えられるメカニズムが絞り込める」とシンガー氏は話している。

 この研究は「Nature Geoscience」誌のオンライン版に7月29日に掲載された。

Images courtesy SSI/NASA

文=Andrew Fazekas

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