ワシントンの汚染川、貧困層の食料源に

2012.07.24
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ワシントンD.C.を流れるアナコスティア川で、釣り上げたナマズの皮膚の病変を見せるフェルミン・ディアス(Fermin Diaz)さん。

Photograph by Krista Schlyer
 アメリカ、ワシントンD.C.を流れるアナコスティア川。ナマズやスズキの仲間などが多く生息し、春の訪れと共に川岸は釣り人たちで賑わいを見せる。だが、この川はアメリカで最も汚染が進んでいるという。 ポトマック川に注ぐアナコスティア川には、プラスチックボトルやバスケットボールなど種々雑多なゴミが浮遊し、川面はギラギラとした油膜に覆われている。また旧式の雨水排水設備からは、毎年40億トン近い生活排水や有毒物質が流入する。

 しかし、ワシントンD.C.には、アナコスティア川で捕獲した魚を食料にしている人々がいるという。

◆大きな原因は貧困

 環境保護グループや行政担当者は最近まで、釣り人の大半は釣った魚を川に戻しており、持ち帰って食べる人はごく一部と考えていた。NPO「アナコスティア・リバーキーパー(Anacostia Riverkeeper)」の代表者マイク・ボリンダー(Mike Bolinder)氏は、「せいぜい数十人だろうと高をくくっていた」と話す。

 リバーキーパーなどのNPOと公的機関とが共同で行った最新調査によると、捕獲した魚を口にする人数ははるかに多かったという。ガンなどの健康被害との因果関係は特定されていないが、気になる報告もある。アナコスティア川の底に生息するナマズ「ブラウンブルヘッド」を調べたところ、50~68%で肝臓に腫瘍が見られ、およそ25%で皮膚に病変が認められたという。

 当局もさまざまな勧告を発しているが、担当者のブライアン・キング(Brian King)氏によると効果はほとんどないという。主な原因は川で漁をする人々の経済事情だが、彼らの言語や文化、人間的な気質なども大きな障害になっている。例えばスペイン語圏から移住してきた人々に、捕獲した魚を食べる危険性を伝えることは難しい。言葉の壁に加え、教育水準の低さや移民という立場などが、勧告内容の理解や漁業許可の取得を困難にしている。

 代々アナコスティア川流域で暮らしてきた人々についても、説得は容易ではない。数十年に渡り釣った魚を食べてきた人もおり、当局の勧告を疑問視しているという。ボリンダー氏は、「100年間も無為無策の役人を、彼らが信用するはずがないだろう」と指摘する。

 勧告にも関わらず魚を食べる人が減らない背景には、貧困や飢えの問題も潜んでいる。危険性を認識し自らは口にしない釣り人でも、食料に困っている人がいれば魚を分け与えてしまう。

 この問題は解決が難しい。調査に参加したジュリエット・グラスロス(Juliet Glassroth)氏は、「いま飢えている人に向かって、その魚を食べると10年後にガンになると言っても意味がないでしょう」と語る。

◆今後の見通し

 アナコスティア川には、多数の釣り人やカヤック愛好家も訪れる。リバーキーパーなどの支援グループによる浄化活動は急務だが、環境が完全に回復するまでには最低でも数十年かかるだろう。

 アナコスティア川は今、生態系や環境の保護に向けた歴史的な転換点に立っている。「釣りも水泳も楽しめるのが河川の本来の姿だ。水質浄化法(Clean Water Act)にも明文化されている。流域の人々が川で釣った魚を安心して口にできる権利を、だれも奪うことはできない」とボリンダー氏は話している。

Photograph by Krista Schlyer

文=Krista Schlyer

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