単一原子の影の撮影に初めて成功

2012.07.12
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レーザー光による原子の影が初めて撮影された。

Image courtesy Kielpinski Group, Griffith University
 1つの原子の影が世界で初めて撮影された。可視光で撮影された史上最も小さな対象だ。この画像化技術には、遺伝子研究や暗号化技術など、幅広い応用の可能性があるという。 最先端の画像化技術を追求する研究者たちが用いたのは、イッテルビウム(原子番号70の元素)の荷電原子、つまりイオンを真空の電場の中で浮かせ、レーザービームを当てるという方法だった。ビームの太さは原子の大きさの1000倍ほどある。

 イッテルビウム原子は、レーザー光のごく一部を吸収するため、背景に影ができた。その影を顕微鏡のレンズで拡大し、デジタルカメラセンサーで記録した。

 イッテルビウムを使ったのは、この原子がちょうど強く吸収する波長のレーザー光を発生できることがわかっていたためだ。

 研究を率いたオーストラリア、グリフィス大学の物理学者デイブ・キールピンスキー(Dave Kielpinski)氏は、「元素はそれぞれ特定の波長に反応する。従ってこの技術で違う種類の原子を見るには、別のレーザーシステムが必要になる」と話す。キールピンスキー氏によると、可視光で見ることのできる最小のものは原子で、原子の影の撮影は史上初めてだが、原子自体はこれまでにも(可視光で)撮影されている。

 研究チームは、この類例のない写真の撮影後も技術の洗練を続けており、(まだ公表されていないが)この写真の2倍も濃いイッテルビウムの影を撮影しているという。また、画像解像度の向上にも取り組んでいる。いずれ、原子核を回る電子がどのように影の形に影響を与えるかまでわかる日が来るかもしれない。

◆原子暗号

 影の画像化技術を使えば、生きている細胞内のDNAの研究に道が開ける可能性があると研究者は指摘する。DNAにレーザー光を当て、光の吸収パターンを観察するのだ。DNAに特殊な分子を付ける現在の技法では、細胞にダメージを与える危険性がある。

 また、この技術は「量子暗号ネットワーク」で情報を送るために利用できるかもしれない。単一の原子をデータストレージ・デバイスとして用い、量子物理学的にプライバシーを保証するとキールピンスキー氏は話す。

「この研究は、光を使って単一の原子に語りかける新しい方法を生み出す。そこで、このストレージ・ノードのための新しいプロトコルを簡単に作り上げることができる」とキールピンスキー氏は付け加えた。

 原子の影の研究の詳細は、オンライン科学誌「Nature Communications」に7月3日付けで掲載されている。

Image courtesy Kielpinski Group, Griffith University

文=Ker Than

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