◆希少な事例
野生ネコ科動物の保護団体「パンセラ(Panthera)」の代表を務めるルーク・ハンター(Luke Hunter)氏は、「ライオンはどんな獲物でも殺せる。アフリカのある地域では、大きなプライド(群れ)でゾウを倒すことが知られている。しかし、カバに襲いかかる姿は非常に珍しい」と話す。
「ライオンはヌーやシマウマなど、仕留めやすい獲物を狙うのが普通だ」。パンセラは、ナショナル ジオグラフィック協会のビッグキャット・イニシアチブと提携している。
ハンター氏によると、クルーガー国立公園に隣接するサビ・サンド動物保護区で1988年から2000年に実施された研究では、大型肉食動物に殺された動物4000体以上が調査された。しかし、ライオンが獲物にしたカバは1体だけだったという。
ライオンがカバを襲うことがいかに珍しいかは、1933年から1966年にかけてクルーガー地区で行われた研究でも示されている。その調査で確認された肉食動物による他の動物の捕殺4万6181例の中で、ライオンがカバを殺したのは6例のみであり、うち4例はひどい干ばつの時期でカバはやせ細っていたという。
ケニアにある非営利のレワ野生動物保護管理公園でCEOを務めるマイク・ワトソン(Mike Watson)氏も、「ライオンとカバの対決は普通ではない」と同意する。
「ライオンは自分が傷つくのを嫌がる。カバやゾウ、大人のキリンなど、大型哺乳類に戦いを挑むとケガをする可能性が高く、あえて狙いはしない。ターゲットはもっと手数がかからない動物だ」。
◆オスライオンの役割
ミネソタ大学でライオンを研究する生物学者クレイグ・パッカー(Craig Packer)氏は今回の事例について、「オスライオンは怠け者で、メスにすべての仕事を押しつけるという固定観念を覆す写真だ」と話す。プライド(群れ)のメスは、基本的に小さな獲物を捕まえる。「アフリカスイギュウ、キリン、カバなどの大型動物はオスの担当だ」。
パンセラのハンター氏も、「オスライオンは非常に有能なハンターだ。写真のように、相手の出方をうかがう戦法を得意としている」と話す。「プライドの乗っ取りを狙う放浪オスとも戦う必要がある。オスの生活は決して楽ではない」。
◆ライオンの戦術
水の中に逃げ込んだカバに対して2頭のライオンは、気付かれないよう陸上で身を隠していた。その後、カバが水から出て50メートルほど離れるまで待ち、追撃するという高等戦術を用いた。
レワ野生動物保護管理公園のワトソン氏は次のように話す。「ライオンは戦術の天才だ。非常に独創的な方法を編み出して危険な獲物を襲う。レワに隣接するボラナ野生保護区では、18頭のライオンが巧みな連携で大人のキリンを倒している」。
写真家のスクーマン氏が対峙する両者の観察を始めてから数時間。途中でもう1頭加わって3頭となったライオンは、カバを水中で仰向けにひっくり返すことに成功し、溺死させたという。
Photograph by Andrew Schoeman, National News/Zuma Press