月の砂の謎、ナノ粒子モデルで解明?

2012.06.22
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アポロ11号で月面に降り立った宇宙飛行士、バズ・オルドリンが月面を覆う砂の性質を調べるために撮影した、月面ブーツを履いた自らの足元。

Photograph courtesy NASA
 月の表面を覆う砂は、月面を舞うことがあり、さらに深さ2メートルの地点の温度は表面の砂と比べて摂氏にして167度も低いケースがある。 このように奇妙な性質を持つ月の砂にまつわる謎を解明したと、このたびオーストラリアの研究チームが発表した。謎を解く鍵は、ナノサイズのガラス質微粒子にあるという。

 微小隕石が月面に衝突すると、月の表面にガラス質の微細な泡が生じる。月には大気がないため、月面に衝突する天体が減速することはない。そのため、どれほど小さなものであっても「大きなダメージがある」と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で地球化学を研究するポール・ウォーレン(Paul Warren)氏は話す。同氏は今回の研究には加わっていない。

 直径約100ミクロン(砂浜のきめ細かい砂粒と同等の大きさ)の粒子でも、月面に衝突すると、その衝撃で月の岩の一部が融解し、ガラス質の泡が形成される。

 今回発表された研究でクイーンズランド工科大学のマレク・ズビック(Marek Zbik)氏は、1970年に月から試料を持ち帰ったソビエト連邦の無人探査機、ルナ16号が収集したガラス質の泡を分析。特別なタイプのX線顕微鏡を用い、泡内部の立体画像を構築した。

 地球上では、通常こうした泡の内部には気体が入っているものだが、月の場合は「見たこともないようなガラス状の微粒子が多孔質の網の目のように結びつき、泡の内部全体に広がっていた」と、ズビック氏は報道機関向けの声明で述べている。

 ズビック氏は現在も起きている微小隕石の衝突によって、こうした泡の内部にあるナノサイズの微粒子が放出され、他の砂と混じり合うのではないかと推測している。このような微粒子は非常に小さいため、その挙動は量子力学の法則に従うが、この法則は一般的(巨視的)な物理学の法則とは大きく異なっている。

「ナノ粒子は非常に小さく、その材質に関係なく、この小ささゆえに他にはない性質を帯びる」とズビック氏は説明する。

 月のナノサイズのガラス質微粒子が、量子力学上どのような性質を持つかは、正確にはまだ明らかになっていない。

 しかし、ナノ粒子は一般的に物質の電気的性質や伝導性に影響を与えることがわかっている。この特質を考えると、月の砂が静電気を帯び、月面に舞う性質を持つことや、異例なほどの断熱性を持っていることも、ナノ微粒子が原因とも考えられるとズビック氏は提起している。

◆ガラス質のナノ粒子だけでは不十分?

 しかし月を研究する科学者らは、ガラス質のナノ粒子がこの奇妙な量子力学的性質の唯一の原因かどうかには疑問が残るとしている。 NASAのジョンソン宇宙センターの宇宙物質および探査科学部門に所属する研究者、ロイ・

 クリストファーソン(Roy Christoffersen)氏は、「我々はこれまで、考え得るあらゆる手法を使って、月の砂に関する広範な解析を行ってきた」と話す。

 クリストファーソン氏によれば、こうした解析により、例えば月の砂に含まれる気孔(ガラス質の泡)の平均的な割合についても、既に把握されているという。同氏の話では、この量に基づいて考えると、月の砂には他の種類のナノ粒子もふんだんに含まれていなければ説明にならないとのことだ。

「計算すればわかるが、月の砂を構成する物質の中で気孔を持つ物質をすべて集め、そのすべての内部を微粒子で満たし、さらにそのすべてを放出したとしても、その総量では月(にあるとみられるナノ粒子)の量全体を説明することはできないはずだ」。

 さらに、月の1カ所から採取したたった1種類の試料だけでは、月面において微粒子に内部を埋め尽くされたガラス質の泡が一般的な存在かどうかはわからないとクリストファーソン氏は言う。

 UCLAのウォーレン氏も同意見だ。ウォーレン氏は、ズビック氏の構築した画像は「こうした気孔の内部を前例のないほどの拡大率で示し、内部の微細な構造を明らかにしたものだ」としながらも、月の砂を構成する物質に関する「我々の既存の認識を変えるものになるかは何とも言えない」としている。

◆地上で混入した可能性も

 さらに、ソビエト連邦のミッションで地球に持ち帰られた試料は、他の月の試料ほどクリーンな状態で保管されていなかった可能性があるとウォーレン氏は釘を差す。「ズビック氏によって記録された微細な粒子が、実際には地球上に戻ってきてから混入した物質だったとしても、私はそれほど驚かないだろう」。

「おそらく本当に月で採取された素材だとは思うが、断言はできない。アポロが採取した試料を使って、同じ研究をやり直すべきだろう」。

 月のガラス状の穴の内部に関する研究は、オープンアクセスの学術誌『ISRN Astronomy and Astrophysics』の2012年号に掲載されている。

Photograph courtesy NASA

文=Rachel Kaufman

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