天然コカインの生合成経路が解明

2012.06.13
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コカの1種(学名:Erythroxylum australe)のクローズアップ画像。

Photograph by Neil Fletcher and Matthew Ward, Getty Images
 コカの木で天然コカインが作り出される重要な過程の1つが明らかになった。 コカインはその悪名の高さとは裏腹に、合法的な麻酔薬や興奮剤と成分が類似している。コカインがコカの木でどのように生合成されるのかがわかれば、中毒性のない新しい麻酔薬の開発につながる可能性があるという。

「植物は敵に襲われても走って逃げることができない。生存競争に勝つには、他の生物には生成できない優れた化学物質を作り出す必要がある。その1つがコカインだ」と、ドイツのマックス・プランク化学生態学研究所の生化学者ジョン・ダウリア(John D'Auria)氏は言う。

 しかし、植物が編み出した化学物質の恩恵を人間が最大限に享受するには、「その生合成経路を知る必要がある。麻酔薬の効果はそのままで不要な性質を取り除くことができるだろう」。

◆古代の薬

 南米では約8000年前からコカが栽培されてきた。「南米の重要な換金作物で、危険な麻薬の原料でもある。だが、医療用としても長い歴史も持つ」とダウリア氏は話す。先住民は栽培したコカの葉を、宗教儀式中にガムのように噛む習慣があった。また、空腹感やのどの渇きの解消にも役立ったという。

 しかし現在でも、コカの木がコカインを生合成するプロセスはほとんど解明されていない。原因の1つは高い違法性だ。アメリカでは、コカの栽培やコカインの研究が許可されている施設はほとんどない。

 コカインは「トロパンアルカロイド」という化合物の1種である。ダウリア氏のチームはコカインの謎を解明するため、トロパンアルカロイドを含むが合法的に栽培できるナス科の顕花植物の研究を開始した。ナス科の植物にはジャガイモやナスなどがある。

 コカは別のコカノキ科に属するが、ナス科にもトロパンアルカロイドを生成する植物が多い。瞳孔散大薬や乗り物酔い防止薬、消化性潰瘍薬として使用されている場合もある。

 研究の結果、コカの木はトロパンアルカロイド分子の生合成にナス科とは別の酵素を使用していることが判明した。

 ダウリア氏にとって意外な結果だったという。アルカロイドは何段階にもわたる生合成過程を経る複雑な分子なので、通常であれば進化の過程で最適な合成方法だけが残り、別の方法が生まれることはない。

「さらに、ナス科ではトロパンアルカロイドを根で生合成するが、コカは葉だ。非常によく似た化合物を生合成する方法が2通り生み出されていたことになる。非常に興味深い」と同氏は語る。 コカインの生合成過程の1つを特定するため、同チームは最終生成物を化学反応で分解して過程を遡及した。そして、コカインの主要な炭素環と安息香酸の結合を促進する酵素と、それをコードする遺伝子を発見した。

◆次のステップは

 同チームは現在、コカイン生合成経路の最終段階に関する研究発表を準備している。今後はさらに経路を遡り、全経路を解明したいという。

 アメリカのドナルド・ダンフォース植物科学センターで医薬化合物を研究する生化学者トニー・クッチャン(Toni Kutchan)氏は、「意外な発見ではないが、コカイン合成経路の解明に近づくだろう」とコメントする。

「今回は多くの過程の1つが明らかになったにすぎない。今後の研究が非常に楽しみだ。また、コカの木がなぜ複雑な分子を生成するに至ったのか、その進化の理由もわかれば面白い」。

 この点についてはダウリア氏のチームでも既に研究を進めており、おそらく殺虫作用が目的と推測しているという。

 研究成果の詳細は「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌のオンライン版に6月4日付けで掲載されている。

Photograph by Neil Fletcher and Matthew Ward, Getty Images

文=Dave Mosher

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