子供をかわいがるローランドゴリラの大人。カナダ、アルバータ州のカルガリー動物園で(資料写真)。

Photograph by S.J. Krasemann, Getty Images
 ゴリラは幼い仲間とコミュニケーションを取る際、非音声形式の「幼児語(赤ちゃん言葉)」を使うことが確認された。霊長類でこのようなコミュニケーションが確認されたのは初めてのことだ。これをきっかけに、人間における同様のコミュニケーションがどのように進化してきたかについても、考察が深まるかもしれない。 ローランドゴリラは主に、音声を伴わない身振りで会話をする。

 研究を主導したベルリン自由大学教育心理学部のエファ・マリア・リーフ(Eva Maria Luef)氏は、飼育されているゴリラが遊ぶときにどのようにコミュニケーションを取るかを研究しているときに、3歳以上のゴリラは年下のゴリラと特別な関わり方をしていることに気づいた。

 年長のゴリラは幼いゴリラに対して、同年代の仲間に対するときよりも、相手をつかんだり、あごをなでたりといった身体的な接触を伴う身振りの繰り返しを多用していたのだ。

 ゴリラでも「子供が大人とは違う扱いをされていることに驚いた」とリーフ氏は話す。この行動は「身振りの幼児語」の証拠だと研究論文では述べられている。

 人間の大人と幼児を結びつける赤ちゃん言葉は、普遍的に見られる。どの言語でも、赤ん坊と話す言葉は同じように、高音で、短く歌うような調子になる。

 これまでのところ、人間以外の霊長類で音声による幼児語を使うことがわかっているのはアカゲザルだけだ。

◆観察されたゴリラの「幼児語」

 リーフ氏と、論文の共著者カーチャ・リーバル(Katja Liebal)氏は、ドイツのライプチヒ動物園とイギリスのハウレッツ野生動物園のローランドゴリラの生態をビデオで記録した。

 研究チームが観察したゴリラは24頭で、それを年齢別に、幼児、年少、若者、成体の4つのグループに分けた。

 特に注目したのが遊んでいるときの行動だ。遊びを始めるときと終わりにするときには、非音声的なコミュニケーションとして、頭と手足と体の姿勢を使ったサインを交換する。このサインにより、相手のゴリラの行動を変えさせる。

 研究チームは次に、映像を分析して、各個体ごとの非音声的サインに目を向けた。

 すると、幼児グループのゴリラに対して、年長の3つのグループのゴリラは頻繁に、身体的接触をしていることがわかった。子供自身が母親に対して接触により意思を伝えるからかもしれないと、リーフ氏は指摘する。

「大人は、幼児が接触を伴う身振りの方を好むことを知っていて、それを念頭に置いて幼児に対しているのかもしれない」。

 年長のゴリラが幼児に対して身振りを繰り返す理由については、リーフ氏はそれほど確信していない。しかし、メッセージは繰り返される方が理解しやすいことを、年長のゴリラが知っている可能性はあるという。

◆ゴリラの研究で人類の進化への理解も深まるか?

 フィッシャー類人猿研究保全センターの所長、スティーブ・ロス氏は、この研究により「多くの霊長類学者がおそらくすでに目にしたり推測したりしていたことを裏づける、求められていた(観察に基づいた)証拠が得られた」と電子メールに書いている。

 一般論として、「多くの霊長類研究と同じく、この情報を利用して人間の行動プロセスと認知プロセスの進化のあり方について新しい発想を得られると思う」とロス氏は言う。ロス氏は今回の研究に関係していない。

 たとえば、人間の赤ん坊は多くの行動や概念を積極的に教えられるが、ほかの霊長類の幼児は、受動的な観察を通じて学ぶ方が普通だ。

 ゴリラに見られる動きや接触の繰り返しは、「興味深い中間点を示している。この中間点から、進化上、ヒトとゴリラの共通の祖先において、それまでよりも関係性の強い新しい教育能力が発生したのはいつのことかを理解できるかもしれない」とロス氏は書いている。

 リーフ氏は、一般に霊長類のコミュニケーション研究は非音声言語を無視することがあまりにも多いと付け加える。一方、人間を対象にした研究では、音声言語と非音声言語を両方考察することが多い。「それは、人間のコミュニケーション方法についての全体論的アプローチだ。類人猿研究でも同じようにしなければならない」。

 この研究は「Journal of American Primatology」誌の電子版に5月29日付けで掲載されている。

Photograph by S.J. Krasemann, Getty Images

文=Christine Dell'Amore