前回(2004年6月)の金星日面通過時に、フロリダ州フラッグラー・ビーチの埠頭で撮影された写真。太陽面を黒い点のような金星が横切っている。

Photograph by Jim Tiller, Daytona Beach News-Journal/AP
 6月5日あるいは6日(現地時間)に、世界各地で金星のトランジット(日面通過)が観測される。今回を逃すと次は100年以上先まで見ることができない、なかなか稀な天体現象だ。 トランジットは、惑星が地球と太陽の間を通過する時に発生する。このような稀な配置になる可能性があるのは、地球よりも太陽に近い水星と金星だけだ。

 このうち、比較的公転軌道が小さい水星は、公転周期も短いため、13年ないし14年おきにこの現象が発生する。しかし金星のトランジットは、公転軌道が黄道面に対し傾いているため、非常に稀となる。今回の金星のトランジットが終わると、次回は2117年まで待たなくてはならない。

 2012年のトランジットでは、黒い点のように見える金星が、約6時間をかけて太陽の正面を横切るはずだ。「金星の見かけ上の直径は太陽の30分の1しかないため、スイカの前に置かれた豆粒のように見えるだろう」と、マサチューセッツ州にあるウィリアムズ大学のジェイ・パサコフ(Jay Pasachoff)教授は語る。

 ハワイ州、アラスカ州、ニュージーランド、日本、フィリピン、そしてオーストラリアのほぼ全土、東アジアの国々の一部では、今回の金星のトランジットを最初から最後まで見ることができる。トランジットが発生するのは、西半球の国では現地時間5日、東半球の国では現地時間6日にあたる時間帯だ。日本では、6日午前7時10分頃に始まり、午後1時20頃に終わる。

 北米地域では、午後遅くに金星が太陽の正面を横切り始める姿は確認できるはずだが、トランジットの最中に太陽が沈んでしまう。

 また、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリア西部では、6日の日の出時には既に太陽の間を金星が通過し始めているはずだ。

◆金星の大気が見える可能性も

 トランジット発生時には、金星の縁のうち太陽に近い側が、まずは太陽正面の向かって左上に接する(外蝕)。

 それから30分足らずで、今度は金星の反対側の縁が、先ほど最初に金星が触れたのと同じ箇所で、太陽正面の縁と接する(内蝕)。このとき数分間にわたり、太陽の縁に接している部分が離れずに引き伸ばされ、水のしずくのような形に変形して見える。この現象はブラック・ドロップ効果と呼ばれている。

「これは主に、地球の大気によるぶれが原因だと考えられている。さらに、地球から見た太陽の縁の部分が比較的暗く見えることも、この現象の発生に一役買っている」と、カリフォルニア州オークランドにあるチャボット宇宙科学センターの天文学者ベン・バレス(Ben Burress)氏は説明する。

 観測場所の天候状況や標高、使用する天体望遠鏡の大きさなどにもよるが、バレス氏によれば、トランジットの間には金星の大気が観測できる可能性もあるという。

「金星が太陽表面を通過し始める、あるいは去ろうとしている時には、宇宙空間を背景に、金星の縁を取り巻いている輝く光が見えるかもしれない」とバレス氏は解説する。「これは金星の分厚い大気の上層部により、太陽の光が屈折することで起きる現象だ」。

◆惑星の謎を解き明かす手がかりに

 今回のトランジットを利用して集めた金星の大気のデータを、欧州宇宙機関(ESA)の金星探査衛星ビーナス・エクスプレスが集めた計測データと比較しようとする動きもある。

 ビーナス・エクスプレスは金星の密度の高い大気における興味深い気象パターンに関する情報を地球に送信しているが、金星に近い位置にいるため、一度に集められるデータは金星の一部地域に限られる。

 一方、今回のトランジットでは、金星の上層大気における気象に関してより大局的な視点からの観察が可能で、各地域の相互関係も把握できる。

 一方、NASA/ESAのハッブル宇宙望遠鏡においては、このトランジットの機会を活用し、太陽以外の恒星の周囲を回る太陽系外惑星を発見し、その性質を特定する手法の精度を向上させようとしている。

 今回のハッブル望遠鏡による観測は、NASAの宇宙望遠鏡ケプラーが現在実施している観測にとって、格好の比較対象になるはずだ。ケプラーは、恒星の周りを回る惑星のトランジットにより地球から見た恒星の光量が下がる現象を手がかりに、太陽系外惑星の探査を進めている。

 これまでにケプラーが惑星と確認した天体は61、惑星候補の数は2300以上にのぼり、成果は上々だ。

 しかしながら、ウィリアムズ大学のパサコフ教授によれば、「これらの恒星は非常に遠くにあり、詳しいところまでは観測できないため、こうした太陽系外惑星のトランジットは、対象となる恒星の全体的な光量の変化でしか検知できない」という。

 そのため、ケプラーが集めたデータの分析では、多くの推定を加えた上で、太陽系外惑星の大きさや大気の組成をはじきだしている。

 今回の金星のトランジットにおける太陽光の変化を記録すれば、近隣の惑星である金星の組成と、これまでの計算が合致しているかを確かめることができる。これがさらに遠くにある太陽系外惑星に関するモデルの改良にも役立つという。

「我々の太陽系におけるトランジットの詳細を理解することが、はるか彼方の恒星系におけるトランジットの仕組みを解き明かすことにもつながる」と、パサコフ教授は期待をかけている。

Photograph by Jim Tiller, Daytona Beach News-Journal/AP

文=Andrew Fazekas