脊髄損傷のラットが再び歩行可能に

2012.06.01
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後肢に麻痺のあるラットが階段をのぼる。機械式ハーネスに支えられ、電気刺激と薬物注射の助けも借りて、目指す先にはチョコレート。

Photograph courtesy EPFL
 後肢の麻痺したラットに機械式ハーネスを装着して再び歩けるようにするという最新の研究成果が発表された。ただ、ラットは人間のような直立二足歩行を強いられていて不自然ではある。また、適正な量の電流や薬物による刺激の助けも借りている。 とはいえこれは、深刻な損傷を受けた脊髄が再び活性化した初めての例だと研究チームは言う。この方法は人間の患者にも何らかの光明をもたらすだろうとチームは言い添える。

 スイス、チューリヒ大学の神経科学者グレゴワール・クルティーヌ(Gregoire Courtine)氏のチームは、まず27匹のラットの脊髄を切断し、一部の組織は無事だが、神経は直接つながっていないという状態にした。このため、ラットは後ろ脚をコントロールできなくなった。

 1週間後、このうち17匹のラットに対して一種の理学療法的治療を開始した。さらに薬物を注射し、脊髄に直接電気刺激を与えた。対照群となった残りの10匹は何の治療も受けなかった。

 理学療法はまずトレッドミル(ウォーキングマシン)を使って始められた。17匹のラットには機械式ハーネスが装着された。今回の実験用に特別に作られたもので、ラットが直立するよう吊り下げるはたらきを持つが、ハーネス自体には、ラットを前に歩かせる機能はない。

 トレッドミルは、反射動作を利用することで歩行運動をある程度受動的なものにすると、アメリカ国立衛生研究所(NIH)のナオミ・クレイトマン(Naomi Kleitman)氏は説明する。

「脳からの信号が、損傷箇所より下へは届かない場合でも、トレッドミルで歩くことはできる。トレッドミルが右足を後ろへ運べば、その刺激で左脚に反射が生じるから、左脚を一歩前に踏み出せる」とクレイトマン氏は言う。クレイトマン氏は今回の研究には参加していない。

◆やる気の秘訣はチョコレート?

 トレッドミルでの運動に加えて、このグループのラットには弱い電気刺激が与えられた。これは脳が脚を動かすために送る信号を模したものだ。さらに、この信号を運ぶ神経細胞の活動を助ける薬品を注射して、信号の伝達を補助した。

 トレッドミル運動の開始から3週間後、17匹のラットのうち10匹には、トレッドミルではない普通の通路を歩くよう促した。まだハーネスは装着したままで、電流と薬物による刺激も続けた。

 それから数週間のうちに、トレッドミルを降りたラットたちは、ハーネスを付けたまま階段を「駆け上がる」までになったと、研究を率いたクルティーヌ氏は述べている。コースを終えた後で貰えるご褒美のチョコレートが効いたのかもしれない。

 これらのラットはまだ補助なしでは歩けないが、脊髄神経繊維の再生は「ほとんど完全に」終えており、いったんは途絶えた脳と後肢の連携が再び確立されていると論文には述べられている。この効果が見られたのは、動かない床の上でトレーニングを受けたラットだけで、何の治療も受けていないラットや、トレッドミル運動のみのラットでは、麻痺した後肢の随意運動が再び可能になることはなかった。

◆人間への応用は?

 これらの治療方法はどれもすでに人間の患者にも試されているとクレイトマン氏は言う。今回の論文が画期的なのは、これまでこれらの方法が組み合わせて用いられたことはなかったからだ。

 ミネソタ州にあるメイヨー・クリニックのトニー・ウィンデバンク(Tony Windebank)氏も、「このチームがラットに対してやっていることは全部、人間に対しても行える」と話す。ただ、刺激によって反射作用を起こして歩かせる方法は「四足歩行の動物を対象に行うほうが、直立歩行の動物よりもずっと簡単」なのだそうだ。それでも「重要な第一歩だと思う」とウィンデバンク氏は言う。

 クレイトマン氏は、ラットの深刻な麻痺の症状が改善したことは、人間の患者にも希望を与えると考えている。深刻な麻痺のある患者には「何をやっても意味がないと言う人もいるが(略)、試してみる価値はあることが、今回のような研究で分かる」とクレイトマン氏は言う。

 今回の研究は、6月1日発行の「Science」誌に掲載されている。

Photograph courtesy EPFL

文=Rachel Kaufman

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