最古のメラニン色素、巨大イカから発見

2012.05.22
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コウイカに似た1億6000万年前の巨大生物から見つかった墨袋。中のメラニン色素はいまだに柔らかい状態を保っていたという。右下は現在のヨーロッパコウイカ(学名:Sepia officinalis)。

Photographs courtesy British Geological Society; (inset) University of Virginia
 1億6000万年前のイカの墨袋が発見された。長期間乾燥した環境にさらされていたものの、この現在のコウイカに似た生物から見つかった2つの化石化した墨袋にメラニン色素が含まれていることが、新たな研究により確認された。 この大昔の生物の墨は現在のイカの墨によく似ており、イカが我が身を守るために使うこの器官が、ジュラ紀以降それほど変化していないことを示唆している。

 墨袋の化石から見つかった黒褐色の色素は、メラニンの一種であるユーメラニン(真性メラニン)だが、これは動物界では一般的な物質で、例えば鳥の羽やイカの墨、さらには人間の髪や肌などに存在している。ユーメラニンは太陽光からの保護や擬態など、さまざまな役割を担っている。

 これまでもユーメラニンの存在を示唆する化石は見つかっていたが、メラニン粒子と推定される物質の画像分析など、間接的かつ信頼度の低い方法でしか確認されていなかった。メラニンの粒子はバクテリアに外見が似ているなどの理由から、この手法には問題が多かったと、今回のイカの墨袋に関する研究論文の共著者であるジョン・サイモン氏は指摘している。

 今回、サイモン氏をはじめとする研究チームは、走査型電子顕微鏡による観察や、光の波長測定により物質の化学的な特徴を明らかにする質量分析法など、直接的で高精度な各種の化学的手法を用い、化石化した墨袋にユーメラニンが存在することを突き止めた。

 このジュラ紀のイカの墨袋は、イギリスの太古に海底だった場所から発見されたもので、墨の成分が分解することなく保存されていたため、「例外的に」軟組織が残った標本を調査することができたと、論文には記されている。

「このような太古の化石を調査できることに、研究チームの誰もが胸を躍らせた」と、シャーロッツビルにあるバージニア大学所属のサイモン氏は語っている。

◆太古の時代から変わらないイカの墨

 メラニン色素発見までの道のりは決して平たんではなかった。第一に、「分光学の手法では、黒い物質の分析は非常に難しい。光を吸収してしまうのだ」と、サイモン氏はその難しさを説明する。さらに、メラニン色素の標本の組成を調べるため、化石を解析するにも困難がつきまとう。というのも、現時点ではメラニン色素の分子構造を損なうことなく、色素を取り出す方法がまだ確立されていないからだ。

 しかし、研究チームは複数の異なる手法を用い、メラニン色素がそのままの形で墨袋の中に保存されていることを確認した。そして、ジュラ紀の化石から見つかったメラニン色素の化学組成を、現在生息しているヨーロッパコウイカの墨に含まれる色素と比較した。ヨーロッパコウイカは、捕食しようとする外敵の目をくらませるため、墨を水中に放つ性質を持つ。

「我々が試したすべての手法からわかる限りでは、この(化石から見つかった)墨は現代のイカの墨と区別がつかないほどよく似ている」と、サイモン氏は述べている。

 サイモン氏によれば、1億年以上も墨の組成が変わっていないという事実は、「これが非常に有用な防御メカニズムである」ことを考えると、それほど意外でもないという。

 全体として、今回の研究ははるか昔の地球について新たな知見を提供する、軟組織の可能性を示すものとなっている。

「人類以前の生命について、我々が知っていることを改めて検証してみると、そのほとんどは骨格化石の情報から得られたものだ」と、サイモン氏も指摘する。「現在は研究者も、骨の化石に加えて、柔らかいまま保存された軟組織の存在に気付き始めたところだ」。

 サイモン氏はさらに、軟組織の研究は、「今では絶滅してしまった生物種、そしてこれらの生物と現代(の生物)との関係について、全く新しい扉を開く可能性がある」と、今後に期待感を示した。

 化石化したイカの墨袋に関する研究は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌のオンライン版に5月21日付で発表された。

Photographs courtesy British Geological Society; (inset) University of Virginia

文=Rachel Kaufman

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