オフィオコルディケプス(Ophiocordyceps)という寄生性の菌類がアリに胞子を植え付けると、ゾンビ化が始まる。菌類は徐々にアリの脳を支配し、涼しく湿った場所へと導く。そこでアリを絶命させると、頭から子実体を伸ばし、さらに胞子を拡散する。
「森に入ると、菌類に感染したアリの“墓場”がある」とヒューズ氏は話す。「地面を走り回るアリにとっては非常に危険な場所だ。菌類の胞子が散らばっているのだから」。
しかし、実際はそれほど危険ではなかったという。
研究チームはブラジルにある複数の墓場から得た新たなデータと、以前調査したタイの墓場のデータを分析。未命名の菌類がゾンビアリ菌の発生を抑制していることを突き止めた。
別の菌類によって、ゾンビアリの胞子の「大部分が取り除かれている」とヒューズ氏は説明する。
ゾンビアリ菌は化学的に“去勢”されてしまう。しかも、その効果は絶大だという。分析では、試料のわずか6.5%しか胞子を形成できなかった。つまり、昆虫寄生菌の拡散がほとんど抑えられているということだ。
ヒューズ氏はオークの木の繁殖になぞらえる。「小さなドングリの大部分が死に、大人の木に成長するのはごくわずかだ。森の中では日々、素晴らしい相互作用がいくつも起きている。もっと詳細に調査する必要があるだろう」。
今回の研究結果は、「PLoS ONE」誌の5月2日号に掲載されている。
Photograph courtesy David Hughes, Penn State University