FEROPの責任者の1人、エリック・ホイト(Erich Hoyt)氏は電子メールの取材に答え、「調査チームは、鯨類を探して写真を撮るという日常的な作業をしているときに、このシャチに出会った。みな驚き、喜んだ」と状況を説明する。ホイト氏自身はこのとき調査船に乗っていなかった。
イギリス、アバディーン大学の生物学者ホリー・ファーンバック(Holly Fearnbach)氏は電子メールの中で、アイスバーグと名前が付けられたのは今回が初めてだが、この個体は2000年と2008年にアラスカのアリューシャン列島で目撃されたシャチと同じかもしれないと書いている。
1つには、アイスバーグは過去に目撃されたシャチと、とてもよく似ているとファーンバック氏は述べる。
しかも、目撃された3回とも、白いシャチは10数頭の家族の群れと一緒で、群れのほかのシャチは白と黒の典型的な模様だったとファーンバック氏は付け加えた。
アイスバーグがロシアとアラスカの間を横断しているのは不思議ではない。北太平洋で魚を補食するシャチは、2000キロ以上移動することが確認されている。哺乳類を獲物にするシャチは、生息域がもっと狭い。
2000年と2008年に目撃されたシャチはアイスバーグよりも色が濃く、斑点が多かったが、体色は季節により変化することがあるとホイト氏は説明する。これは皮膚表面の藻類のせいで、「白い動物は藻が付くと暗い色に見えやすい」。
全体を通して考えると「同じシャチである可能性は高いが、(3回の写真を詳しく分析して)同じかどうか確認するまでは、確かなことは言えない」とファーンバック氏は話す。
◆白いシャチの謎
アイスバーグの体長は約7メートルある。サドル(背びれの後方)に色の付いた部分があるため、本当のアルビノではないだろうとホイト氏は言う。
クジラ・イルカ保護協会(WDCS)の上級研究員でもあるホイト氏は、「アイスバーグはアルビノかもしれないし、そうでないかもしれない。本当のところはわからない」と付け加えた。
ホイト氏によると、確実な方法は、アイスバーグの目がピンクで色素が欠けているかどうかを確認することだという。目に色素がなければ確実にアルビノと言える。
これまでにも、チェディアック・東症候群という稀な免疫・神経系疾患で体色に変化が出たシャチが観察されたことはあるとファーンバック氏は補足する。
しかし、チェディアック・東症候群の動物が成体になるまで生き延びることはほとんどない。つまり、少なくとも16歳になっている成体のアイスバーグがこの病気にかかっている可能性は低い。2000年と2008年に目撃されたオスがアイスバーグとは別の個体だったとしても、やはりこの病気ではなかった。
「このような明るい体色になる可能性のあるその他の遺伝的疾患については、よくわからない。もう一度遭遇して遺伝子サンプルを採取できればと期待している」とファーンバック氏は話す。
◆健康で丈夫なアイスバーグ
実際の状態がどうであろうと、「アイスバーグは健康そうに見える。魚を補食する群れに属する、立派で丈夫なオスであることはわかる。あの体色はアイスバーグに悪影響を及ぼしていないと考えていい」とホイト氏は言う(シャチの群れの中には哺乳類を補食するものもあるが、アイスバーグの群れは魚だけを食べているようだ)。
一般論として、「アイスバーグのような美しい動物を見つけると、未探査の海域には今なお新発見の大きな驚きが残されていることがわかる。アイスバーグに触発された人々が、鯨類の保護だけでなく、彼らが暮らす生息海域の保全にも力を注ぐようになってくれればと願う」とホイト氏は述べている。
Photograph courtesy E. Lazareva, Far East Russia Orca Project