古代ローマ、女剣闘士は実在した?

2012.04.20
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武器を手に持つ女性の像。以前は体を洗う道具と考えられていた。

Photograph courtesy Alfonso Manas
 ローマ帝国時代、女の剣闘士はほとんど存在しないと考えられてきた。しかし、ドイツの美術館に所蔵されている彫像を分析した結果、訓練を積んだ女性たちが円形闘技場で死闘を繰り広げていた可能性が明らかになったという。 研究を率いたのはスペイン、グラナダ大学のアルフォンソ・マナス(Alfonso Manas)氏。女剣闘士の存在を示す発見は、この小さなブロンズ像で2例目だという。 ドイツ、ハンブルグの美術工芸博物館の所蔵で、制作は約2000年前。腰を布で覆い、胸をあらわにした女性が左手で大きな鎌のような物体を振りかざしている。

 女性が手にしているのはシカ(sica)だとマナス氏は考えている。湾曲した短剣で、トゥラケス(トラキア剣闘士)が用いていた。トゥラケスは一般的に、羽根飾りの付いたヘルメットと小さな盾、金属製のすね当てで武装していた。鎧(よろい)を身に着けないため背中が弱点で、シカは格好の武器だった。

 これまで、この道具は肌かき器だと解釈されてきた。古代ローマの浴場などで体の汚れをかき取るのに使われていたという。しかしマナス氏は、「女性の姿勢を見る限り、その解釈には無理がある」と異議を唱える。

◆勝利のポーズ?

 もし体を洗っているのだとしたら、「地面を見つめ、体を洗う道具を高々と持ち上げている理由がわからない」とマナス氏は話す。さらに、「腰部を布で覆っている。入浴中なら何も身に着けないはずだ」。

 マナス氏によれば、下を向いて腕を上げる姿勢は、敗れた相手を見下ろす剣闘士の所作を示しているという。古代ローマの芸術作品では、“剣闘士の典型的な勝利のポーズ”として描かれているためだ。

 ヘルメットや盾を身に着けていない点も、勝利のポーズだと解釈すれば説明がつく。試合の後、「剣闘士はヘルメットを地面に置く。観客に勝者の顔を見てもらうためだ。盾も地面に投げ捨てる」とマナス氏は語る。

◆“エロティックな印象”

 裸の上半身も、剣闘士では普通だったという。「男女とも胸をあらわにして試合するというルールがある」とマナス氏は説明する。

 ただし、観客の大部分が男性だったことを考えると、女性が胸を出すことには別の理由があったのかもしれない。マナス氏は論文の中で、「観客にエロティックな印象を与えていたのは間違いない」と述べている。

 女剣闘士が存在した事実を示すもう一つの証拠は、トルコのボドルムにある古代ローマ遺跡で発掘されている。西暦1~2世紀ごろのレリーフに刻まれていたという(現在は大英博物館に所蔵)。

 出土品が限られているため、古代ローマでは女剣闘士の試合は比較的少なかったと推測される。ただし、文書による記録は残されているという。

 姿を見たという記録が古代ローマにはいくつか存在する。西暦1世紀ごろの歴史家スエトニウスによれば、ローマ皇帝ドミティアヌスは夜にたいまつの明かりの中で、女剣闘士に試合をさせていた。そして200年ごろ、皇帝セプティミウス・セウェルスは女同士の試合を禁止している。

 マナス氏によれば、ブロンズ像の出どころは不明だが、「西暦1世紀ごろのイタリア半島の様式」だという。

 今回の論文は「International Journal of the History of Sport」誌で2011年12月15日に発表されている。

Photograph courtesy Alfonso Manas

文=James Owen

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