デリーの大気汚染、カギは三輪タクシー

2012.04.17
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政策の変更により、デリーの通りでは圧縮天然ガス(CNG)を燃料とする三輪タクシーが増えると予想される。しかし、それだけでは自動車やSUVの所有を抑制できないだろう。

Photograph by National Geographic
 インド第2の都市デリーでは、乗用車やトラックがディーゼルエンジンから排気ガスをまき散らして走っている。その隙間を縫うように進むのが原動機付きの三輪タクシー(オートリクシャー)である。デリー政府は数年前、三輪タクシーの燃料を環境に優しい天然ガスに変えれば、大気汚染を根絶し、拡大する交通需要を支えることができると予測していた。 現在のデリーは、圧縮天然ガス(CNG)を燃料とする車両が世界で最も多く走る都市の一つとなった。しかし、悩みの種は解消されていない。

 デリーの路上では毎日、何十万もの通勤通学者が危険を顧みず、安い料金で済む三輪タクシーを捕まえようと躍起になっている。公共交通機関の不足に悩む市民は車の購入に走り、交通渋滞がさらに深刻化するという悪循環に陥っている。デリーの人口はインド全体のわずか1.4%だが、11%の自家用車がこの街に集中している。シンクタンクや自治体、起業家は、三輪タクシーの利用を促進すれば車への依存が減り、大気汚染を改善できると口をそろえる。

 しかし、政策とインセンティブをうまく組み合わせるのは容易ではない。特に、インドで拡大している中間層の多くにとって、車は交通手段であると同時にステータスシンボルにもなっているからだ。だが、環境に優しい三輪タクシーのような近距離輸送を含め、交通の大規模な改革を実行しなければ、都市部の交通渋滞と深刻な大気汚染は悪化の一途をたどるだろう。インドの都市人口は現在3億4000万だが、2030年までには5億9000万に膨れ上がると予測されている。

◆三輪タクシーの増加

 発展途上国では長年、人間や自転車が引く人力車が必要不可欠な交通手段だった。その後、原動機付きの三輪タクシーが生まれインド都市部で急増、軽油燃料の2ストロークエンジンによる大気汚染の懸念も大きくなった。安価で単純な2ストエンジンはチェーンソーや芝刈り機に広く使われており、自動車の4ストロークより不完全燃焼が多いため、汚染物質の排出量が増える。

 デリー政府は市内を走る三輪タクシーの燃料を環境に優しいCNGに変え、この問題に対応しようと試みた。最高裁判所は1997年、大気汚染の懸念を引き合いに出し、台数を5万5000台に制限する裁定を下している。しかし首都ニューデリーを擁し、ムンバイに次ぐ1100万の人口がさらに増加しているこの街では、自家用車が増加し続け、三輪タクシーも数が不足。台数制限は不適当だった。そして2011年11月、最高裁は規制緩和を発表、さらに4万5000台が上乗せされた。

 しかし、誰もが憧れる自家用車を諦めて、窓もなくガタガタ揺れるブリキの三輪タクシー利用に導くのは容易なことではない。デリーでは1日に約1200台のペースで車輌が増加。クラクションをけたたましく鳴らすタクシーや高級セダン、SUVが路上の9割を占拠するまでに至っている。それでもなお、満たされた交通需要は20%を下回る。

◆きれいな空気を

 デリーの通勤通学者は呼吸するたび、肺に刺激を感じ、胸が苦しくなるような思いをしている。この街の空気には有害な微粒子が大量に含まれており、その濃度は世界保健機関(WHO)の安全基準の5倍に達する。アメリカ、イェール大学とコロンビア大学の研究者が人工衛星を使って大気汚染を追跡し、1月に発表した論文によれば、インドの大気汚染は世界最悪で中国より深刻という。

 デリー政府はさまざまな解決策を検討している。バスや電車など公共交通機関の拡大、徒歩や自転車での移動を促すインフラの改善、駐車場の改革、交通を重視した開発などだ。基本計画では、公共交通機関による移動の割合を現在の約40%から2020年までに80%へ増やす目標を設定している。しかし現状悪化の状況にブレーキはかかっていない。三輪タクシーによる移動は毎年約5%、自家用車やオートバイによる移動はそれぞれ12%、15%ずつ増加している。

 専門家は交通問題の解決に三輪タクシーは不可欠だと語る。しかし同時に、交通渋滞によってデリーの経済が阻害され、住民が息の詰まる思いをしないようにするには、あらゆる面から積極的な対策を講じる必要があると口をそろえている。

Photograph by National Geographic

文=Rebecca Byerly in New Delhi, India

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