キャメロン監督、深海底の探査に成功

2012.03.26
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チャレンジャー海淵から帰還し、潜水艇DEEPSEA CHALLENGER(ディープシー・チャレンジャー)号のハッチから姿を見せたジェームス・キャメロン氏。

Photograph by Mark Thiessen, National Geographic
 映画監督で探検家のジェームズ・キャメロン氏が3月26日、海洋最深部であるマリアナ海溝のチャレンジャー海淵の着底に成功した。ナショナル ジオグラフィックの探査チームによると、水深1万898メートルに達したのは現地時間午前7時52分(日本時間午前6時52分)。現地時間の同日正午頃、無事に再浮上し帰還した。『アバター』、『タイタニック』、『アビス』などの大作を世に送り出した映画監督で、ナショナル ジオグラフィック協会付き探検家でもあるキャメロン氏は、海溝に着底すると海上のスタッフに向けて「システムはすべてOK」とメッセージを送った。

 同氏は、アポロカプセルのような狭い潜水艇内のコックピットから、月よりも異質な深海を調査した。太平洋のグアム島南西にあるチャレンジャー海淵を制覇した人類はキャメロン氏で3人目。単独潜航としては史上初の快挙である。

 自身が「直立魚雷」と呼ぶ潜水艇に乗り込んだキャメロン氏は、海中でのデータ収集や標本採集、写真やビデオの撮影を行った。1960年、チャレンジャー海淵に初めて到達した2人乗り潜水艇「トリエステ号」乗員の視界は、着底時に巻き上がった沈泥でほとんど失われていた。当時からすれば考えられないほどの技術的進歩である。

 数時間ほどの海底探査を終えたキャメロン氏は、潜水艇のバラストを切り離して海面に帰還した。浮上に要した時間は、想定より短く約70分間。海面に姿を現した潜水艇をヘリコプターが確認し、間もなく海洋調査船マーメイド・サファイア(Mermaid Sapphire)とバラクーダ(Barakuda)に待機した技術スタッフが浮上した潜水艇を回収した。

「プロジェクトを成功させるため、何年間も徹底的に準備してきた」と、「DEEPSEA CHALLENGE(ディープシー・チャレンジ)」プロジェクトの主任科学者を務める海洋生物学者ダグ・バートレット氏は語る。同プロジェクトにはナショナル ジオグラフィック協会とロレックス社が協力している。

◆潜水艇を最深淵へ

 チャレンジャー海淵に到達するため、キャメロン氏らは7年の開発期間を費やし高さ7メートルの「DEEPSEA CHALLENGER(ディープシー・チャレンジャー)号」を建造した。

 直立した艇体は、マリアナ海溝目がけ回転しながら深海へ降下していく。速度は分速約150メートル(時速約9キロ)にもなるという。テキサス大学ダラス校の海洋地質学者ロバート・スターン氏は、「相当なスピードだ」と驚く。

 事前の想定では、チャレンジャー海淵に90分ほどで到達すると計算されていた。実際の所要時間は2時間36分だった。

「一般的な遠隔操作無人探査機(ROV)の潜水速度は、分速40メートル(時速約2.4キロ)程度だ」とスターン氏は比較する。同氏は今回の探査には携わっていない。

 2009年にチャレンジャー海淵を探査したROV「ネーレウス(Nereus)号」のプロジェクトマネージャーで開発主任、ウッズホール海洋研究所のアンディ・ボーエン氏は、DEEPSEA CHALLENGER号を「有人潜水艇で海洋最深部に到達するという難題を見事に解決する素晴らしいソリューションだ」と賞賛する。「海底まで最速で到達できるように設計されている」。

 DEEPSEA CHALLENGER号のチームは、「降下時間が短ければ、科学的調査に使える時間が増える」と期待していた。

◆生命探査

 キャメロン氏が採取した標本や、フィルムに収めた映像は発表まで予測がつかない。チャレンジャー海淵の生態環境はほとんど解明されていないからだ。

 以前に実施されたROVによる2つのミッションでは、灰白色の細かな泥で覆われた海底がわずかに撮影されている。

「潜穴、足跡、排泄物など、生命体のかすかな痕跡を発見できるかもしれない」と、スクリップス海洋研究所の生物海洋学者リサ・レビン(Lisa Levin)氏は言う。同氏は「DEEPSEA CHALLENGE」プロジェクトの一員であり、今回の探査を地元でモニタリングしている。

「水が澄んでいれば、クラゲやクセノフィオフォラも目撃できるだろう」。クセノフィオフォラはハチの巣のような姿をした巨大な単細胞生物で、マリアナ海溝の他のエリアでは既に生息が確認されている。

 3月上旬にパプアニューギニアで実施されたテストで、キャメロン氏は水深約8000メートルの深海からエビのような姿をした体長17センチの巨大端脚類を持ち帰った。プロジェクトの主任科学者バートレット氏は、「あの水深でこれほど大きな端脚類は見たことがない。しかも、映像には2倍の大きさがある個体も写っていた」と驚く。

 しかし、チャレンジャー海淵のような深海底では、殻の形成に必要なカルシウムがすぐ溶解してしまうため、甲殻類が生息する可能性は低い。その姿が確認できれば、驚くべき科学的発見になるという。

「カサガイの付いた岩や海底の泥に住む二枚貝などが見つかっても面白い」とレビン氏は期待を寄せている。

Photograph by Mark Thiessen, National Geographic

文=Ker Than

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