甲虫の同性愛行為、繁殖に影響していた

2008.11.04
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同性愛行為に及ぶ2匹のオスのコクヌストモドキ(写真)。この甲虫の場合、オス同士の同性愛行為によって異性との繁殖の機会も増えていることが新たな研究で明らかになった。

Photo courtesy Sara Lewis, Tufts University
 コクヌストモドキという甲虫のオスは同性愛行為に及ぶことがある。この行為によって、実際には繁殖の機会が増えていることが新たな研究で明らかになった。 コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)は小麦の害虫で、温帯地域に広く生息している。この虫の同性愛行為自体は、数十年前から指摘されていた。だが、その理由については、進化の観点から見て説明のつかない謎として残されていた。進化の理論に基づけば、オスはメスとの生殖行為にエネルギーを集中するはずだからだ。

 アメリカ、マサチューセッツ州メドフォードにあるタフツ大学の進化生態学者で、研究を率いたサラ・ルイス氏もこの点に着目した。「コクヌストモドキのオスは繁殖につながらないような行為に多大な時間を費やしている。何か理由があるのか、突き止めるために実験に着手した」と同氏は語る。

 この研究は「Journal of Evolutionary Biology」誌に掲載されている。

 同性愛行為はほかにも昆虫、ペンギン、霊長類などで行われることが知られている。理由についてはさまざまな仮説も提唱されてきた。メスとの交尾の前にできるだけ練習を積んでおくため、劣化した古い精子を事前に排出しておくため、ほかのオスに対して社会的に優位であることを誇示するため、などといった考えが出されている。

 ルイス氏の研究チームは、コクヌストモドキのオスとメスに個体を識別するマークを付け、生殖行為の成果を追跡調査した。同時に、対象とした群れの子孫における父系のつながりについても観察を行った。その結果、子孫に受け継がれた遺伝子の数から判断すると、同性愛行為に及んだからといってメスとの繁殖成功率が上がるわけではないことが分かったという。また、同性愛行為と社会的な優位性にも関連は認められなかった。別のオスと性的行為に及んだ回数の多いオスが、メスの関心を引くようなこともなかったという。

 一方、オス同士は同性愛行為において互いに精液をかけあっていることが判明した。したがって、このような行為はメスとの交尾の前に古い精子を排出し、新しい精子を準備するためのものである可能性が示唆された。

 さらに研究チームは、精液をかけられたオスがその後でメスと交尾すると、メスは交尾相手以外のオスの精子を受精することを突き止めた。つまり、オスはメスと直接交尾せずに自らの精子を受精させているのではないかという驚きの結果が得られたのだ。そうなると、コクヌストモドキの同性愛行為は繁殖に直接役立っていることになる。交尾の時間と手間をかけずに精子を受精させることができるからだ。

「にわかには信じられないような結果だったので、何度も実験を繰り返してみたが、確かにこうしたメカニズムが働いていると考えられる」とルイス氏は話している。

 イギリスにあるシェフィールド大学の昆虫学者クラウス・ラインハート氏は、この研究を高く評価して次のようにコメントしている。「この種の行為に言及している研究は多いが、すぐに人間の視点に置き換えて考察するものばかりだった。今回の研究はいたずらに同性愛行為をはやしたてるのではなく、昆虫の場合はどうなのかという冷静な観点で行われ、結果として素晴らしい成果が得られている」。

 アメリカのフロリダ州ゲインズビルにあるフロリダ大学の行動生態学者ジェーン・ブロックマン氏も次のように述べている。「これまでは単に混乱しているか、性欲が強すぎてそんな行為に走るのだろうと同情的に語られることが多かった。こうして客観的な調査がなされたことは非常に大きな進歩といえる」。

Photo courtesy Sara Lewis, Tufts University

文=Matt Kaplan

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