太陽に飛び込み蒸発する彗星を初撮影

2012.01.20
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太陽に飛び込む彗星「C/2011 N3」(2011年7月撮影)。NASAの太陽観測衛星SOHOがとらえた画像で、遮光板の白い丸は太陽の光球の位置を示す。

Image courtesy SOHO/ESA/NASA
 NASAの太陽観測衛星の最新データにより、太陽へ突進して蒸発した彗星の姿が初めて明らかになった。 太陽系を周回する際に太陽表面の極めて近くを通過する彗星は「サングレーザー」と呼ばれている。サングレーザーのうち、ほぼ同じ軌道を持つ氷の彗星のグループが「クロイツ群」である。クロイツ群に属する彗星は現在までに1000個以上発見されている。

 1995年に打ち上げられたNASAの太陽観測衛星SOHOにより、太陽に近づくクロイツ群の彗星が発見できるようになり、観測数は急激に増大した。

 SOHOに搭載された太陽観測装置(コロナグラフ)には中央部分に遮光板が備えられており、太陽本体の光を遮ることができる。本来は、太陽の周囲でおぼろげに輝く高層大気「コロナ」を分析するための装置だが、太陽に近づく彗星も観測可能となった。

 だが、これまでSOHOが記録した彗星の“死”は、遠くでバラバラになったケースや、遮光板に隠れている間に消えてしまったケースがほとんどだった。

 研究チームのリーダーでアメリカのカリフォルニア州パロ・アルトにあるロッキード・マーティン先端技術センターの太陽物理学者カレル・シュライバー(Karel Schrijver)氏は、「遮光板の影に隠れた彗星は再び反対側から姿を現さなかった」と話す。

 2010年にはNASAの新たな太陽観測衛星ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー(SDO)が打ち上げられた。今回、クロイツ群の彗星が太陽大気の中で分解していく瞬間を確認できたのはSDOのおかげだ。シュライバー氏は、「SDOの観測により、彗星と太陽双方の貴重なデータが手に入る」と語る。

◆小型空母くらいの彗星

 史上初めて蒸発する瞬間を撮影された彗星は「C/2011 N3」。完全に分解する前、太陽表面から9万7200キロまで接近していた。低層コロナの内部に収まる距離だ。

 C/2011 N3は太陽の磁場にも入っていた。磁場と彗星の明るい尾の相互作用が観測されている。

 2011年12月、クロイツ群の別の彗星「ラブジョイ彗星」が太陽に近づいたときにも、この相互作用は確認されている。ラブジョイは太陽表面すれすれにまで接近したが、奇跡的に生還。「コロナに入った後のラブジョイの尾は、C/2011 N3よりも激しく左右に振られていた」とシュライバー氏は述べる。

 どちらの彗星も、太陽風を形成する粒子が太陽の磁場によって加速し始める場所に位置していた。太陽風とは、太陽からあらゆる方向に常に放出されている荷電粒子である。シュライバー氏は、「彗星の尾は太陽の磁場を観測する唯一の手段で、研究が進めば磁場構造について理解が進むだろう。また、太陽風についても手掛かりが得られるはずだ」と期待する。

 シュライバー氏の研究チームは、彗星の構成要素に関する既存のデータと、SDOの観測によって判明した彗星の蒸発速度を組み合わせてC/2011 N3の質量を推定した。「6万トンあったと考えられる。小型の空母くらいだ」。

 彗星の質量に関しては、探査機が直接近づいて画像を撮影できたわずかな例外を除いて、ここまで正確に計測できたことはなかった。「空母は海上を時速数十キロ程度で進むが、C/2011 N3は太陽大気の中を秒速600キロで飛んでいった」。

 実際、彗星の動きはあまりに速く、SDOでも観測はギリギリだった。「現行世代の計測機器は非常に精度が高いので、わずかにピンボケしただけで済んだ」。

◆彗星衝突は観測できるか?

SDOは強力な彗星追跡能力があり、今後は彗星が太陽表面に接近するたびに、これまで入手不可能だったデータが取得できるようになるだろう。

「次のサングレーザーが姿を現したら、すぐに複数の衛星の照準を合わせて観測体制に入れるようになっている」とシュライバー氏は話す。「彗星が太陽に実際に衝突する瞬間は、いまだ観測されたことがない。しかし、もし観測に成功すれば、“大きな波紋が広がる”に違いない」。

 今回の研究成果は、1月20日発行の「Science」誌に掲載されている。

Image courtesy SOHO/ESA/NASA

文=Rachel Kaufman

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