ワシントン州シアトルにあるワシントン大学のペンギン専門家ディー・ボースマ(P. Dee Boersma)氏は、アルビノのように見えるが、実際にはおそらくイザベリニズム(isabellinism)だろうと言う。
イザベリニズムとは、2009年に海洋鳥類学の専門誌「Marine Ornithology」に掲載された論文によると、遺伝子変異によってペンギンの羽毛の色素が薄くなった状態を指す。その結果、本来は黒い部分の色が「均等に薄くなり」、灰黄色から薄茶色になるのだという。
◆イザベリニズムはアルビノとは別物
イザベリニズム、白変種(leucism)、アルビノはいずれも専門的には異なる遺伝形質を指すが、しばしば混同して使われている。白変種というのは体毛のメラニンが生成されなくなる遺伝子変異で、虹彩は通常の色のままだ。これに対し、アルビノの個体では全身でメラニンがまったく生成されない。
「ペンギンでは多くの種において、このような配色の個体がまれに現れる」とボースマ氏は電子メールで取材に応じた。
これまでに確認されたイザベリニズムの個体の大多数は、南極半島全域にみられるジェンツーペンギンだった。同じ形質を持つ個体が最も少ないのは、南米の沿岸部に生息するマゼランペンギンとされる。
ペンギンは黒い背中のおかげで、海中で上方を泳いでいる捕食者からも獲物からも身を隠すことができる。そのため、今回サウス・シェトランド諸島で確認された個体が生き延びていくうえで、イザベリニズムであることが障害となるのではないかとボースマ氏は懸念している。ただし、この問題に関する先行研究はないそうだ。
実際、このペンギンを見つけたクルーズ船の上でも、「多くの人が、この珍しい個体が生き延びられるかどうかを心配していた」と、リンドブラッドのスティーブンス氏が書いている。
しかし安心材料もあり、「配色が違うことで漁ではやや不利になるかもしれないが、白変種の個体も普通に子供を産み育てているのが定期的に確認されている」と同氏は述べている。
Photograph courtesy David Stephens, National Geographic Expeditions