白色光をさまざまな色に分光するレンズと同じように、「時間レンズ」は時間の領域で光を各種要素に分解する。

Photograph by GI Photo Stock X/Alamy
 アインシュタインは相対性理論で、強い重力場では時間の流れが遅くなると予言した。そして今回、アメリカ、コーネル大学の研究チームは時間を完全に止める実験に成功したという。光を曲げて時間の“穴”を作りだす手法で、少なくとも見かけ上は時間が止まるそうだ。 この実験は、可視光線を屈折させて物体を見えなくする“透明マント”の研究成果に基づいている。光が物体に当たらず避けて通った場合、その光は散乱も反射もしないため物体は不可視となる。これが透明マントの発想だ。

 研究チームは、この概念を応用して時間の“穴”を作り出すことに成功した。ただし約40ピコ秒(1兆分の40秒)と極めて短い。

「光の速度を上げ下げして時間的な歪みを生じさせれば、時間領域で光線にギャップが生まれる。その瞬間に起きた事象は光を散乱させず見えないため、起こらなかったも同然になる」と、研究に参加したコーネル大学の物理学者アレックス・ガエータ(Alex Gaeta)氏は解説する。

「例えば、貴重な展示物を守る博物館の防犯装置を考えてほしい。行き交うレーザー光線を犯人が横切ると、検出器が反応して警報が鳴るシステムだ」。

「しかし、光線の一部で速度を上げ、別の部分で速度を落とせば、瞬間的に光線が途切れることになる。このタイミングなら誰でも通り抜け可能だ。直後にすべての速度を正常に戻せば光線は元通り。検出器は“異常なし”と判断してしまう」。

◆時間を止める

 時間停止実験では、プローブめがけてレーザー光線を照射。光線は「時間レンズ」という装置を通る設定にした。

 従来の光学レンズを通った光は空間的に屈折するが、時間レンズでは時間的分布が変化する。「光線の時間的な特性をコントロールできる。時間領域で光を歪めて、実験のように時間の空白を生むことが可能だ」とガエータ氏は語る。

 研究に参加したコーネル大学応用工学物理学部(School of Applied and Engineering Physics)のモティ・フリードマン氏は、特殊なガラス光ファイバーを用いた実験手法を考案。プローブめがけて照射したレーザー光線と強力なパルスレーザー(細かく点滅するレーザー)を、その中で交差させた。

「光線の周波数と波長が変わり、スピードも変化した。これで時間のギャップが生まれた」と同氏は説明する。時間の穴が生じた直後に第2のパルスレーザーで変化を解消すると、光線の特性は元に戻った。

 この実験では、時間の穴で起こった事象はプローブで検出されなかった。

◆時間版“透明マント”のこれから

 研究はまだ初期段階だが、時間の操作手法が確立されれば各種応用が期待できる。

「応用するには、まず時間の穴を大幅に拡張しなければならない。あらゆる方向から当たる光で同様の結果を得られるよう、3次元での実証も不可欠だ」とアメリカ、ロチェスター大学光学研究所のジーミン・シー(Zhimin Shi)氏はコメントする。「しかし、コーネル大学チームの実験は、最初の一歩として非常に意義深い。われわれの暮らす時空の解明がさらに進んだと言える」。

 実験の詳細は、「Nature」誌の1月5日号に掲載されている。

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文=Brian Handwerk