アメリカ、ハワイ島北部にあるコハラ山の林床を覆うオオミズゴケ(学名:Sphagnum palustre)。

Photograph courtesy Sara C. Hotchkiss
 アメリカ、ハワイ諸島に分布しているコケの一種が、約5万年にもわたり自身をコピーしてきたクローンだと明らかになった。地球上で最も古い多細胞生物の1つの可能性があるという。 北半球各地で見つかるオオミズゴケ(学名:Sphagnum palustre)だが、ハワイでは有性生殖(胞子の形成)を必要とせず、クローン作製のみで繁殖しているようだ。

 採取したオオミズゴケのサンプルはいずれも珍しい遺伝子マーカーを共有しており、何万年も前に風に運ばれてハワイへとやって来た単一の祖先の子孫と見られる。

「オオミズゴケは雌雄異株だが今回は一つの性しかなかったため、有性生殖は不可能だろう」と、ニュージャージー州ラマポ大学の植物生態学者で研究論文の共著者エリック・カーリン(Eric Karlin)氏は述べる。

「単一の祖先にこの珍しい特徴が備わっていたと推測される。多くの祖先が存在した場合、同じ特徴をそれぞれが持っていたとは考えにくい」。

◆最古のコケの驚くべき多様性

 化石化したオオミズゴケが、ハワイ島(ビッグ・アイランド)の北部、コハラ山の山頂付近にある2万3900年前の泥炭から発見されている。カーリン氏らはこの化石を根拠に、オオミズゴケが2万3900年以上にわたりハワイで生育していると考えた。

 期間を算出するため、チームはまず島に現存するコケの遺伝的多様性を分析して、突然変異率を特定。この数値を基に、現在の遺伝的多様性にたどり着くまでにかかる時間を計算した結果、約5万年という解答が導かれた。

 遺伝子解析からは驚くべき多様性も明らかになっている。「クローンはDNAを交換する有性生殖を行わないため、遺伝的に単調」という一般的な見方とは大きく異なる。

「突然変異は常に発生しているので、全く同じコケではない」とカーリン氏は説明する。「長期的に見ると、クローンの子孫がお互い遺伝的には異なる可能性がある。おそらく島には、まだ調査されていない同じ過程を経た種が他にもあるだろう」。

◆オオミズゴケが在来種を圧迫

 有性生殖がないため、オオミズゴケはコハラ山の山頂から外に出られなかったと同氏は語る。別の地に拡散するには、有性生殖で形成される胞子を空中に飛ばす必要があるからだ。

 しかし、島民が無意識にオオミズゴケの分布拡大に協力したこともある。20世紀に梱包材として使用されていたため、ハワイ島の各地やオアフ島にまで運ばれたのだ。「オオミズゴケが持ち込まれた地域、特にオアフ島では爆発的に成長した」とカーリン氏は述べる。

 その裏では現地の他の植物が犠牲になっており、同氏も問題視している。「オオミズゴケは、地表の生態系を一変させる。在来植物の多くは土壌が必要であり、コケの固い層ができてしまうと種が落ちても成長できない」。

 この研究は、「New Phytologist」誌オンライン版で2011年12月21日に発表されている。

Photograph courtesy Sara C. Hotchkiss

文=Ker Than