写真家のジョン・J・キング2世氏を優しく取り囲む野生のゴリラの群れ。動画からのキャプチャ画像。

Still image from video courtesy Jonathan Rossouw
 ウガンダのブウィンディ原生国立公園で、よくあるエコツーリズムとは主客の逆転した、驚くべき映像が撮影された。テントを張ってキャンプ中の人間を見に、野生のマウンテンゴリラの群れがやって来たのだ。 動画サイトで大人気となったこの映像には、アメリカの野生動物写真家で保護活動にも取り組むジョン・J・キング2世氏のところへ赤ちゃん連れのゴリラの群れが近づいてきて座りこみ、キング氏をグルーミングする様子が記録されている。キング氏は驚きに言葉もなく、シルバーバックの大人のオスのすぐ隣に座ったままだ。

「ゴリラたちは、まるで私も仲間の1頭だというようにコミュニケーションをしてきた。本当に自然に起こったことで、どうしてそうなったか教えてほしいくらいだ」とキング氏は言う。

 地元のレンジャーたちも戸惑った様子で、赤ちゃんゴリラが人間に構ってくることは時々あるが、大人がこんな風に興味を示してくるのは見たことがないとキング氏に語った。

 マウンテンゴリラは国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されている。野生での生息数はわずか約800頭と言われている。ただし近年の研究によると、その数は増えつつあるようだ。

◆ゴリラに会える興奮

 ブウィンディ原生国立公園にゴリラに会いに行くのはかなり大変だ。ウガンダ野生生物管理局の許可を取り、地元のレンジャーらの協力を得て、人間に馴れた野生のゴリラを見つけてもらわなくてはならない。

 許可を得るには1日当たり500米ドルが必要だ。それでもゴリラに会える保証はなく「1~8時間の素敵なハイキング」で終わってしまう可能性もある、とキング氏は言う。だがキング氏らのグループは2日連続でゴリラを目撃し、野草を食べたり、遊んだり子守りをしたり、休んだりする様子を観察できた。

 2日目には一行はゴリラの群れにも遭遇した。この同じ群れが、翌朝キング氏らのキャンプ地をお返しにサプライズ訪問することになる。

「この群れを観察した後でキャンプに戻るときは、ゴリラに会えて本当に興奮していたし、翌日には帰国する予定だった。翌朝6時頃、チームの1人が隣のテントで声をあげた。おいジョン、起きろ、信じられるか?」と、キング氏は群れとの遭遇の様子を語る。

 キング氏は、キャンプの中でゴリラを見てもそんなに怖くなかったと言う。前の日にとても穏やかな様子を見ていたからだ。そこでキング氏は道端に座り、至近距離からのシャッターチャンスを待った。

◆ゴリラと至近距離で遭遇

 マウンテンゴリラは、最大で30頭ほどの群れを作って暮らしている。群れは1頭のオスが支配しており、これらのオスは特徴的な毛の色からシルバーバックと呼ばれている。

 ゴリラは普通はおとなしく、攻撃を好まない。それでも非常に力が強いので、至近距離での遭遇はいかなる場合も危険を伴う。現地の協力者には「赤ちゃんゴリラが近づいてくることがあるかもしれないが、服従の姿勢でただ座っていろ、そうすれば普通はそのうちいなくなる、と教わった」とキング氏は言う。

 最初は「そんな赤ちゃんが私の腕を、本当にそっと握ってきた。本当にそっとで、言葉で表現できないくらいだ。小さな子が腕を触ってくるときみたいな、胸がキュンとなる感じの触り方だった」。

  「そのうちに相手は大胆になってきた。いなくなるどころか、私の後ろに回って肩に触ってきたんだ。それから頭に。きっとグルーミングのつもりだろう」。

「シルバーバックが近づいてきたときは固まってしまって、とにかく目を合わせないように、服従を示すのに必死だった。シルバーバックが私の真後ろに動いたことは、仲間に言われるまで気がつかなかった」とキング氏は言う。

「あの触り方といい、甘くて埃っぽい野生の匂いといい、野生の生き物から親愛の情を示されているのだと思った。怖さよりは驚きのほうが強かったし、何よりも、舞い上がるような気分だった」。

◆ゴリラへの懸念

 アフリカ野生生物基金(AWF)のクレイグ・ショリー(Craig Sholley)氏は、以前ルワンダでのマウンテンゴリラ・プロジェクトを率いた際に、ゴリラのいる地域で何千時間も活動している。

 ブウィンディ原生国立公園にも何度も訪れているが、ゴリラが近くをうろつくのは頻繁に目撃できても、ゴリラが歩道沿いのキャンプ地まで踏み込んでくることはめったにないと言う。

「こうした遭遇は動画で見ると嬉しい驚きでいっぱいだが、実際にはさまざまなレベルで危険だ」とショリー氏は言う。

 ショリー氏によると、ほとんどのマウンテンゴリラは人間に馴れているし、人間と空間を共有することにも寛容だ。だからゴリラが害を及ぼす可能性はあるにしても、それほど高くはない。

「正直なところ、私が心配しているのは、ゴリラにとっての危険のほうだ」とショリー氏は言う。たとえば、ゴリラが人間に馴れすぎると、その行動が良くない方向へ変化する恐れがある。

 マウンテンゴリラは、ブウィンディ原生国立公園に300頭生息しているほか、ヴィルンガ山地の森林の奥深くにも500頭あまりが生息している。この地域には3カ国の国立公園がある。

 そのうちの1つ、コンゴ民主共和国のヴィルンガ国立公園の広報担当ルアンヌ・キャド(LuAnne Cadd)氏によると、同国立公園ではすでに一部のゴリラの行動が、人間に馴れて変わりつつあるという。

  「ヴィルンガ国立公園のゴリラのうち2家族は、しばしば森の外へ出て耕作地の作物を食べており、地元の農家にとって大問題になっている」とキャド氏は言う。

もう1つの大きな問題は、ゴリラが人間の感染症の影響をきわめて受けやすいことだ。

「人間の感染症がゴリラの生息地にもたらされたら、生息数を脅かす恐れがある。世界のゴリラの半数がこの森に暮らしていることを考えると、これは大打撃となりうる」と、AWFのショリー氏も言う。

◆“ゴリラのエチケット”に従う

 このことも理由の1つとなって、ゴリラ観察ツアーでは原則として、人間はゴリラから少なくとも7メートルは離れていること、場合によってはマスクを着用することが定められている。しかしキング氏の場合のように、ゴリラの側から至近距離でのコンタクトを取ってきた場合、人間にできることは限られている。

「キング氏がそのままの姿勢でじっと冷静にしていたのは、状況を考えれば驚くべきことだ。“ゴリラのエチケット”を厳守してくれたことは称賛に値する」とショリー氏は言う。

 ゴリラ観察ツアーにはリスクもあるが、ゴリラにとっては種の存続の可能性を高める絶好のチャンスという側面もあるようだ。

「ゴリラ観察ツアーは高収入、低影響だ。少人数のグループが、比較的高額を支払ってゴリラに会いに行くのだから」と、ヴィルンガ国立公園の観光担当カイ・ティジーンク・ウィリンク(Cai Tjeenk Willink)氏は言う。

「これは理想的だ。環境への影響は最小限で済む一方で、公園の利益はかなり大きく、それを維持管理のために再投資できる。ヴィルンガ国立公園では、収入の30%は直接、地域の公共事業に使われる。つまり隣接する地域も公園の収入の恩恵に浴している。20%は公園の運営予算となり、残りの50%は国内の観光収入の少ない他の公園の維持管理に使われている」

 しかし観光客の側ではゴリラを至近距離で観察して、それが結果的にアフリカの動物と人々の役に立つことを期待するだろうが、ジョン・キング氏のような至近距離での遭遇はやはりきわめて稀だと専門家らは指摘する。

「私たちはこの経験を共有したいと思った。それで関心が集まって、もしかして何らかの形でゴリラや地域住民の利益につながることを願っている。この地域の人たちは、自らも貧困に苦しみながら、(保護)活動に取り組んでいるのだから」と、キング氏は言う。

Still image from video courtesy Jonathan Rossouw

文=Brian Handwerk