月面を“はぎ取る”太陽嵐

2011.12.12
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プラズマ(荷電ガス)を宇宙空間に噴き上げる太陽。NASAの衛星が撮影。

Image courtesy SDO/NASA
 月は時折、激しい太陽嵐によって“サンドブラスト”(砂の吹きつけ)をほどこされ、表面から大量の物質をはぎ取られている可能性のあることが、NASAの最新研究によって明らかになった。 太陽は荷電粒子(イオン)を絶えず全方向に放出しており、この流れを太陽風と呼ぶ。太陽風のイオンが月面に衝突して表面にある物質を放出させる現象は、スパッタリングとして以前から知られている。

 しかし、新たなコンピューター・シミュレーションの結果、このサンドブラスト効果が最も大きくなるのは、コロナ質量放出(CME)と呼ばれる太陽プラズマ(荷電ガス)の突発的な放出が起こるときであることが明らかになった。

 激しいCMEは、約10億トンの太陽粒子の塊を時速160万キロのスピードで放出する。塊が地球ほどの大きさであることも珍しくない。

 通常の太陽風は、主に軽い陽子(電子を失った水素原子)からなるが、CMEでは重いイオンの割合がずっと高くなり、その中にはヘリウムや酸素、さらには鉄までもが含まれる。

 これらの重い原子は、陽子よりも強い力で月面に衝突するため、表面からより多くの原子が除去される。

「この巨大なプラズマの塊が月に衝突すると、サンドブラスト装置のような働きをして、表面の揮発性物質をたやすく除去してしまう」と、研究の共著者であるウィリアム・ファレル(William Farrell)氏は声明の中で述べている。ファレル氏は、メリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターで「月環境の動的応答」(DREAM:Dynamic Response of the Environment At the Moon)チームを率いている。

「大規模なCMEは平均2日をかけて通過するが、この間に、ダンプトラック10台分に相当する100~200トンの物質が月面からはぎ取られると研究モデルは予測している」。

 放出された月の粒子は約90%が宇宙空間に流れ出し、そこでイオン化して太陽風に引き寄せられるとローズマリー・キレン(Rosemary Killen)氏は述べている。研究共著者で同じくゴダード宇宙飛行センターに所属する同氏は電子メールで取材に対し、「物質は原子の状態にある。流星ではないので(地球に)流星群をもたらすことはない」と話す。

◆スパッタリングを利用して月の化学組成を調査?

 CMEは太陽活動極大期に最も発生しやすい。極大期とは太陽の磁気的活動が活発になる時期で、約11年周期で起こる。

「太陽活動極大期のピークには(大規模な)CMEがおそらく毎週のように、場合によっては数日ごとに発生する。発生後は2週間ほど静かな時期が続く」と、NASAエイムズ研究センターの惑星科学者であるリチャード・エルフィック(Richard Elphic)氏は話す。エルフィック氏は今回の研究には参加していない。

 太陽は目下、2013年と予測されている次の極大期に向かっているところだ。このときスパッタリングを利用して、月の化学組成についての手がかりを得られるかもしれない。

 2013年に打ち上げ予定の新しい月探査ミッション「月大気・ダスト環境探査機」(LADEE:Lunar Atmosphere And Dust Environment Explorer)を使えば、最新モデルの予測を検証できる。

 モデルのシミュレーションが正しければ、CMEによるスパッタリングは月面の原子をLADEEが周回する軌道の高度(約20~50キロ)まで巻き上げるはずだ。

◆月面着陸の足跡は消えず

 最新モデルは、スパッタリングによって、それまで考えられていた以上に大量の物質が月面からはぎ取られている可能性を示唆したわけだが、それでも月の全質量に比べれば失われる物質の量はごくわずかだ。

 したがって、地球の唯一の衛星である月、およびその表面の“特徴”が近い将来に磨り減ってなくなるような心配はない。「宇宙飛行士たちの足跡も、それと分かる形で100万年後も残っているだろう。まだ人類が存在していて見ることができれば」とエルフィック氏は述べている。

 月面のサンドブラスト効果についての研究成果は、近く「Journal of Geophysical Research - Planets」誌に発表される。

Image courtesy SDO/NASA

文=Ker Than

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