古代アンデスのミイラからドラッグ検出

2008.10.22
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2008年10月に発表された研究によると、ティワナクのミイラの頭髪から、幻覚症状を引き起こすハルミンという物質の痕跡が発見されたという。ミイラは、チリ北部のアサパ渓谷で発見され、紀元800~1200年ごろのものと推定されている。ティワナク文化ではドラッグの使用が広く普及していたようだ。

Photo courtesy B. Arriaza and O. Lagos.
 最新の研究によると、古代アンデス人が向精神薬を使用していたという確かな証拠がミイラの頭髪から発見されたという。 今回の発見により、インカ帝国が誕生する前のアンデス地方に栄えたティワナクの人々が、精神状態に影響する物質を常用していたことが確認された。また、そのような薬物を入手するために遠距離貿易ネットワークを構築していたことも示唆されている。

 研究チームは、チリ北部のアタカマ砂漠にあるアサパ渓谷で発見されたティワナク時代の天然のミイラ32体を分析した。すると、紀元800~1200年ごろのものと推定される大人の男性と1歳になる赤ん坊のミイラの頭髪から、ハルミンという化学物質が検出された。ハルミンは幻覚症状を引き起こす物質で、強力な抗うつ作用を持っている。

 研究チームの一員で、チリ最北部のアリカ市にあるタラパカ大学の化学考古学者、フアン・パブロ・オガルデ氏は「ティワナクの人々は、おそらく治療目的でハルミンを摂取していたのだろう。妊娠や出産に関係する場合もあったと考えられる。ただし、ハルミンの服用が宗教儀式の一環だった可能性もある」と話す。今回の最新研究は、10月14日にオンライン版「Journal of Archaeological Science」誌に掲載されている。

 男性のミイラは、4本のツノのある帽子やパンパイプ、スニッフィング(鼻孔吸引)用の盆など、社会的地位の高さを示す品々と一緒に埋葬されていた。X線分析の結果、鼻の周囲に損傷があることが判明した。スニッフィングの影響によるものと思われる。

 また、赤ん坊についてオガルデ氏は、「母親がハルミンを服用していたのだろう。妊娠や授乳を通じて子どもに伝わったものだと思われる」と話す。

 ティワナク帝国は、現在のチリ北部からペルー南部にあたる地域に広がっていた。ボリビアのチチカカ湖畔に起源を持ち、およそ紀元500~1000年の間、宗教の支配力と軍事力で領域を拡大していった。

 ティワナク遺跡の墓地からは、精巧な装飾が施されたスニッフィング用の道具が多数発掘されている。考古学者の研究によると、ティワナクの人々は宗教儀式で盆と管を使い、薬草や香草を鼻孔から吸引していたという。

 スニッフィングの道具の中には、ヴィルカやシビルなどと呼ばれる植物(学名Anadenanthera colubrina)の粉末が付着しているものも発見されている。この植物の種子には、幻覚症状を引き起こす成分が多量に含まれている。

 また、ティワナク人の頭蓋骨をX線分析すると、多くの場合、鼻が損傷しており、おそらく恒常的にスニッフィングを行っていたためであると考えられている。

 ティワナクから出土した陶器や木工品、石細工、織物からスニッフィングの位置づけを推定すると、スニッフィングはティワナク文化で重要な役割を果たしていたと想像される。しかし、以前の研究では、ティワナクのミイラから幻覚発現物質の痕跡が発見されることはなかった。年月を経るうちに分解してしまったのだろうと言われている。

 南アメリカでハルミンを含む植物として確認されているのは、ジャングルに生息するアヤワスカあるいはカーピと呼ばれるツル植物(学名Banisteriopsis caapi)だけである。現在でもアマゾン先住民族は、このアヤワスカから作る飲み物をシャーマニズムの儀式で使用している。

 この熱帯雨林性の植物はアタカマ海岸には生息していないため、ティワナク人が服用するには、はるか遠方のアマゾンの熱帯雨林から輸送する広大な貿易ネットワークが存在していたはずである。「アマゾンはアサパ渓谷からおよそ500キロ離れている」とオガルデ氏は話す。

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校の考古学者アレクセイ・ブラニッチ氏は今回の研究を評価して、「これまで数多くの研究で、アマゾンとアタカマ砂漠の間に接触があったはずだと言われてきたが、この学説を補強する確実なデータが手に入ったことは非常に喜ばしい」と話す。

「ティワナク人は、周囲の部族を自国の文化に引き込むため、外来の幻覚剤を積極的に探し求めていったのだろう。平凡な日常を送っていた当時のアンデス人は、ティワナクの神秘的な宗教に魅了されていった。ハルミンのような精神状態に影響する物質が、ティワナクの持つ神秘性の源泉の1つだったと考えられる」。

Photo courtesy B. Arriaza and O. Lagos.

文=Charles Q. Choi

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