アジアでもデニソワ人と交雑の可能性

2011.10.31
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デニソワ人の臼歯(上と正面から撮影)。デニソワ人の化石はこの歯を含め、2つしか見つかっていない。

Image courtesy David Reich, Nature
 2010年、ヨーロッパの初期現生人類とネアンデルタール人の異種交配を示す研究が発表され、各界に衝撃が走った。さらに今回、東南アジア付近の現生人類もネアンデルタール人の姉妹グループである「デニソワ人」と交雑していた可能性が明らかになった。中国南部一帯に住む現代人の遺伝子構造の約1%はデニソワ人に由来するという。 デニソワ人は既に絶滅した化石人類の一種であり、大きな歯を持っていたとされるが、詳細の解明は進んでいない。まったく未知の人類と考えられていた時期もある。

 最新の研究成果によると、現生人類とデニソワ人との異種交配で生まれた子孫が、現在もアジア本土に存在しているという。

 2008年にロシア南部アルタイ山脈で見つかった約4万年前のデニソワ人の指骨から抽出したDNAが、この研究の基になっている。

 2010年に「Nature」誌で発表された研究では、同じ化石のDNAを解析した結果、現在のパプアニューギニアをはじめ、南太平洋メラネシアの島々の住人とDNAの約4~6%が共通していることを突き止めた。

 しかし、アジア本土でデニソワ人の遺伝子は見つかっていない。

 研究に参加したスウェーデン、ウプサラ大学進化生物学センターのマティアス・ヤコブソン(Mattias Jakobsson)氏は、「対象範囲を広げて、旧人類の痕跡を調査した」と説明する。

◆わずかな痕跡を求めて

 ウプサラ大学の研究チームは、一塩基多型(SNP)という種類のデータを基に、DNA構成要素の遺伝的変化を測定した。SNPの遺伝子型データは数千人分が登録されているため、完全なゲノムを使用するよりもはるかに多くのデータを利用できる。

 同チームは、各人種1500人分以上のSNPデータを用いて、デニソワ人とネアンデルタール人のゲノムと比較した。

 ただし、この方法は現生人類がアフリカから世界に拡散した過程でのボトルネック効果(急激な人口減少による遺伝的多様性の減少)などの要因により偏りや誤差が出やすい。同チームでは人類拡散のさまざまなコンピューターモデルを用いてこの誤差を取り除いた。

 ヤコブソン氏によると、アジア本土におけるデニソワ人の痕跡は、メラネシア人ほど色濃く残っていない。異種交配の経緯がメラネシアとアジア本土では違ったと仮定すると説明が付くという。

 また、デニソワ人の遺伝情報を持たない現生人類が、異種交配よりも後で東南アジア本土に流入した可能性もあるという。

 しかし、ドイツのテュービンゲン大学の古遺伝学者ヨハネス・クラウス氏は、今回の研究成果に異論を唱える。「その痕跡はごくわずかだ。1%では確かな証拠とはいえない」。

◆現生人類の95%はアフリカ起源

 クラウス氏のチームは、ウプサラ大学チームよりも早い10月7日付けの「American Journal of Human Genetics」誌で相反する説を発表している。「東南アジアの約50集団から270人を対象に調査を行ったが、ウプサラ大学チームが発表したような痕跡はまったく見当たらなかった」とクラウス氏は述べている。

 アメリカ、ボストンにあるハーバード・メディカルスクールのデイビッド・ライヒ(David Reich)氏が率いたDNA解析でも、アジア本土の現生人類にデニソワ人の遺伝情報の痕跡はまったく見つからなかった。

 ライヒ氏の研究では、オーストラリア人、フィリピン人、「ウォレス線」の東側にある島の住人まで対象を広げて、デニソワ人との関係性を調査した。ウォレス線は生物の分布境界線であり、この線を発見した進化理論家アルフレッド・ラッセル・ウォレスにちなんで名付けられた。ウォレス線より西の生物相は進化の起源がアジアにあり、東の生物相はオーストラリアにある。

「このような研究では、“人類の遺伝的起源は定説よりも混在しており複雑”と結論付ける場合が多い」とクラウス氏は指摘する。

「しかし、アフリカから拡散した人類の一部は原始人類との交雑があったが、遺伝的起源の割合は5%を超えることはない。つまり、95%は5万年前にアフリカを旅立った現生人類に由来する」。

 ウプサラ大学チームの研究は、10月31日付けの「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に掲載されている。

Image courtesy David Reich, Nature

文=James Owen

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