ダム建設に揺れるメコン川とイラワジ川

2011.10.24
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ミャンマーの中心を北から南に流れるイラワジ川は、数千万人の住民にとって商業的、文化的な生命線となっている。

Photograph by Khin Maung Win, AP
 東南アジアを流れる2つの大河、メコン川とイラワジ川。何百キロも離れてはいるが、どちらも流域に暮らす億を超える人々の生活に不可欠な存在だ。カワイルカやメコンオオナマズなど1200種以上の動物の生命も支えている。 アジア大陸がエネルギー不足の時代を迎えたいま、メコン流域のラオスとイラワジ流域のミャンマーにとって、川は“貧しい国に富をもたらす水源”という新たな意義を持つようになった。現在、両国は巨大な水力発電ダムの建設について決断を迫られている。プロジェクトには、脆弱な生態系や周辺住民の生活へのリスクが付きまとう。しかし、需要が急増する近隣国、中国とタイに電力を輸出すれば、ラオスとミャンマーに巨額の収入をもたらす可能性がある。

 今のところ、2つの国は異なる道を選んでいるようだ。ラオス政府は、環境団体や援助国、近隣国の反対にも関わらず、メコン川のサイヤブリ(Xayaburi)ダム・プロジェクト(総工費38億ドル、約2900億円)を推進する方針だ。一方、ミャンマー政府は9月にイラワジ川のミッソン(Myitsone)ダム・プロジェクト(総工費36億ドル)の中止を表明、関係者に波紋を広げている。数週間前に電力相がプロジェクト推進を断言したミャンマーは態度を一転し、プロジェクトのパートナー、中国の意向も無視された形だ。実際に建設を中止するのか、国内外には懐疑的な見方もある。

◆川の流れが変化

 両ダム完成の暁には、メコン川下流域とイラワジ川で最初のダムとなる。だが、中国はメコン川上流域で複数のダムを建設中だ。

 アジア地域経済の活発化に伴いエネルギー需要は飛躍的に増大。ダムからの収益がラオスとミャンマーの開発途上経済を転換させる可能性があるが、恩恵はエリート層だけに向かうとの懸念の声も多い。

 研究者や環境活動家は、ダム建設で大勢の住民が立ち退きを迫られ、生活手段や川の生態系が損なわれると心配している。また、今後の開発プロジェクトの先駆けともなり、破壊的なダメージをもたらす可能性もある。

 既に、メコン川上流域や支流のダムの影響で、川の流れに変化が起きているという。

 ラオスとカンボジアのメコン川では、さらに11カ所のダムを建設する計画が以前から存在する。いずれ、すべてが現実のものとなれば、メコンオオナマズなど絶滅が危惧される回遊魚や湿地帯への影響は計り知れないと研究者は憂慮している。

◆巨額の利益の可能性

 水力発電所が稼働すれば、ラオスとミャンマー両国には巨額の利益が転がり込んでくるだろう。

 以前から“東南アジアの動力源”としての期待がかかるラオスでは、主に1260メガワットのサイヤブリ発電所から隣国のタイに電力を販売する計画だ。メコン川流域の6カ所で外国資本によるダム建設が計画中で、すべて完成すれば、年間25億ドル以上の収益を上げる見込みだという。

 ミャンマーで中止されたミッソン・プロジェクトは発電量6000メガワット。アメリカやロシアで稼働中の水力発電所と同等で、最大級の出力規模だ。

 ミャンマーは、ミッソンの電力の90%を販売する契約を中国国有企業の中国電力投資集団(China Power Investment)と結び、年間5億ドルの収入を見込んでいた。両国は同地域でさらに6カ所の巨大ダムを建設する計画でも合意していた。

◆複雑な環境への影響

 広大なメコン川流域はさまざまな研究対象となってきたが、巨大な水力発電開発の影響は予測がつかないと専門家は言う。長年メコン川を調査しているオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の研究者ティラ・フォラン氏によると、ダメージの深刻度は河川系のどこに施設を作るかで異なるという。

 水力発電ダムは川の流れを変化させる。乾期には流量が増加し、モンスーン期の最大流量は減少するのが通例だ。雨期の洪水を制御し、乾期の灌漑を緩和する治水・利水の効果をもたらす機能もある。だが、水力発電事業者にとっての最優先事項は、災害防止や灌漑ではなく、発電である。

 研究者たちは、ダム建設とそれに伴うメコン下流での水流変化は、川の生態系に大きな悪影響をもたらすと予測している。予備調査によると、回遊魚に対する影響は破壊的で、遡上を助ける魚道などを設けても効果は限られているという。

◆ミャンマー、民主化の試金石

 環境活動家グループは、以前から東南アジアの大河でのダム建設に反対してきた。2011年初めの文民政権移行後も軍事統制が続くミャンマーでは、市民の熱意が反対運動の原動力となった。

 ダム建設反対ののろしを上げたミャンマー市民は、イラストや写真を掲げて訴えたり、署名活動を展開するなど、限られた民主主義の境界線を取り払おうと挑戦してきた。昨年、軟禁を解除されたノーベル平和賞受賞者アウン・サン・スー・チー氏もプロジェクトに異議を表明していたという。

Photograph by Khin Maung Win, AP

文=Jeff Smith

  • このエントリーをはてなブックマークに追加