オハイオ州の猛獣脱走、問われる規制

2011.10.19
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
動物が大量に射殺されたアメリカ、オハイオ州の「マスキンガム郡アニマルファーム(Muskingum County Animal Farm)」。トラクターが死骸を埋葬地へ運んでいる。

Photograph by Tony Dejak, AP
 アメリカ、オハイオ州ゼーンズビルにある個人所有の動物飼育場から多数の動物が逃げ出し、数十頭の外来種が射殺された。近年、アメリカでは外来ペットの飼育数が増加しており、今回の事件で規制・管理のあり方が問われることとなった。 10月18日事件当日、「マスキンガム郡アニマルファーム(Muskingum County Animal Farm)」を所有するテリー・W・トンプソン氏は、数十頭の外来種をおりから解放した後、自ら命を絶った。

 警察が出動し48頭を射殺。現場を目撃した市民は、「ノアの方舟をひっくり返したような惨状だった」と証言している。19日夕刻までに、ベンガルトラ18頭、ライオン17頭、ツキノワグマ6頭、ピューマ3頭、ハイイログマ2頭、ヒヒとオオカミ1頭ずつが処分された。無事に捕獲できたのは、ヒョウ3頭、ハイイログマ1頭、サル2匹のみ。

 地元のマット・ルッツ保安官が記者会見に臨み、「日没まで1時間しかなかった。麻酔銃のダート(矢)も十分な用意がなく、やむを得ない処置だった」と語った。専門家の間でも、「選択肢は限られていた」と擁護する意見が大勢を占めている。

 テレビや映画と違い、実際の麻酔薬は効くまでに時間がかかる。ダートの衝撃で動物が攻撃的になったり、驚いて走り出す危険性もあった。世界自然保護基金(WWF)の上級政策担当官リー・ヘンリー氏も、「麻酔はすぐには効かない」と認めている。

 実際、地元動物園の獣医が打ったダートで、トラ1頭が急に走り出したため、警察が射殺せざるを得なかったという。ヘンリー氏は、地元警察の対応に問題はなかったと考えている。

◆適切な規制

 ナショナル ジオグラフィックで大型ネコ科動物の保護活動プログラムを担当するルーク・ダラー氏は、議論すべきは射殺の是非ではなく、トンプソン氏が多数の外来種を飼育できた法律の不備だと指摘する。「彼がトラやライオンを買った時点で、もはや避けようのない事件だった。法律や規制を整備しないと、同様の事件がまた起こるかもしれない」。

 オハイオ州は、外来種を無許可で飼育できる数少ない州の1つだ。規制が緩く、一般市民が野生動物を飼育する際に、アメリカ農務省(USDA)発行のライセンスも要らない。

 トンプソン氏の飼育場は合法だったが、飼育方法には倫理的な問題があったという。残虐行為が何度も報告され、動物たちの差し押さえが試みられたこともあった。

◆飼育トラ、野生より多い?

 今回の事件により、アメリカ国内で増え続けるトラの飼育数にも注目が集まっている。WWFの最新レポートによると、同国では推定5000頭のトラが飼育されており、野生の個体数約3200頭をはるかに上回る。

 赤ちゃんトラがペットとして贈られることが多く、巨大に成長して初めて手に負えない危険な動物だと気付くという。「そして結局は、飼育ではなく“利用”に走ることになる」と、レポートの共著者でもあるWWFのヘンリー氏は訴える。

「現在、国内で飼育されているトラの骨などは、漢方薬の原料として闇市場で簡単にさばくことができる。このままトラ製品の需要が定着、増加すると、野生の個体にまで危険が及びかねない。ペットより高値で取引されるからだ」。

Photograph by Tony Dejak, AP

文=Ker Than

  • このエントリーをはてなブックマークに追加