悲劇的な運命をたどる前に行為を終えてしまえるよう、オスたちは進化の過程でさまざまなテクニックを獲得してきた。
例えば、クロゴケグモのオスはメスのにおいから空腹の度合いを判断し、安全を確認してから交尾を試みる。また、オーストラリアに生息するセアカゴケグモは自身の体の一部を食べさせ、メスとの時間を引き延ばす。
「オオジョロウグモの場合、クモの“触肢”を使う交尾の特徴に関係してくる」と、研究に参加したマチャズ・クンター(Matjaz Kuntner)氏は話す。頭部にある触肢は1対の付属器で、オスの生殖器がある。クンター氏はスミソニアン国立自然史博物館とスロベニア芸術科学アカデミーに所属している。
精子が詰まったオスの触肢は、メスの2つの生殖器にぴったりはまる。触肢を切り離せば、メスの生殖器の穴を“ふさぐ”ことができる。ただし、両方の穴をふさぎ、メスに自分の子どもを確実に産ませるには、何度か連続で交尾する必要がある。メスは複数のオスを相手にする場合があるからだ。
交尾の間のメスの受け入れ態勢を整えるため、オオジョロウグモのオスはメスの背に自分の糸をなでつける。その動きはまるでマッサージのようだ。
クンター氏によれば、オオジョロウグモの属(Nephila)でこの行動をするクモは他に確認されていないという。他の属では、同じ作戦を用いる種が複数いる。
この行動に効果があるのは、オスの糸に含まれるフェロモンがメスを興奮させるか、リラックスさせるためだと考えられてきた。
クンター氏とシンガポール国立大学のダイキン・リー(Daiqin Li)、シーチャン・チャン(Shichang Zhang)両氏は、オオジョロウグモのメスの背に強力接着剤を薄く塗り、「触覚」を奪った。さらに、オスの糸の化学的刺激に反応しているかどうかを確かめるため、「嗅覚」を奪ったメスも用意した。
オスを両方のグループに放ってみると、嗅覚のないメス17匹はすべて、オスにマッサージされると落ち着いた。一方、背中の触覚がないメスは、オスを繰り返し受け入れる確率が低かった。約40%は落ち着かず、多くの個体がオスを食べてしまった。
オスの出糸突起をふさいで糸が出ないようにしても、タイミングよく背中をマッサージすれば、食べられずに済んだ。
この結果、糸は二次的な存在にすぎないと明らかになった。メスはおそらく求婚者の優しいコンタクトに反応しているのだろう。
今回の研究結果は、「Animal Behaviour」誌オンライン版の10月6月号で発表された。
Photograph by Zach Holmes, Alamy