南アフリカのブロンボス洞窟で見つかった10万年前のアワビの貝殻。縁には粘土状物質(オーカー)まみれの砥石が置かれている。

Photograph courtesy Science/AAAS
 内側に鮮紅色(せんこうしょく)の粉末が付着した10万年前のアワビの貝殻2枚が発見された。最古の“絵の具工房”が存在した証拠と見られている。 発見場所は、南アフリカ南岸の町スティル・ベイに程近いブロンボス洞窟。さまざまな色の粘土状物質(オーカー)、アザラシ骨粉、炭、珪岩片、液体(水など)を混ぜ合わせた、原始的な顔料と考えられる。

 研究チームを率いた考古学者クリストファー・ヘンシルウッド氏は、「1つの貝殻は開口部が丸い石で閉じられていた。外すと、中は真っ赤に染まっていた」と語る。同氏は、ノルウェーのベルゲン大学と南アフリカのウィットウォータースランド大学に在籍している。

 洞窟では、砥石、ハンマーストーン(石器を割るための石)、小さな炉の痕跡、動物の骨など、少量の顔料を生産できる道具や設備も発見された。

 ブロンボス洞窟は、少なくとも14万年前から人類の住居として断続的に使用されていたが、オーカーは約10万年前に作られていたようだ。最古の生産設備として、記録を4万年も塗り替えたことになる。

◆化学の知識

 初期人類は長期計画の能力と化学の基本知識も備えていたようだ。「着色料の生産には油が欠かせない。彼らは、アザラシの骨が油分豊富と知っていたようだ。炭と少量の液体も混ぜていたが、炭には粘度や安定性が増す効果があると理解していた。液体は真水か海水、あるいは尿だったかもしれない」とヘンシルウッド氏は述べる。

 ブロンボス洞窟の工房で使われた材料の種類は多くないが、貝殻の中で混ぜ合わせる前にいろいろと準備する必要があった。例えば、オーカーは砕いた後すりつぶして粉末にしなければならない。アザラシの骨は加熱して油を抜いた後、粉砕処理。木材は炭焼きをしていた。

「貝殻の底には指の跡が残っている。混合物は優しくかき混ぜられていた」とヘンシルウッド氏。

 顔料の用途は不明だが、「身体や洞窟の壁に塗っていたのではないか」と推測している。

◆色合いを調節

 生産された色は鮮紅色で、適度な粘性があったようだ。鮮やかな赤色は、使用したオーカーに含まれる酸化鉄に起因する。

 貝殻からは、色合いを調節していた証拠も見つかった。「片方には黄色い鉱物“針鉄鉱(しんてっこう)”の小片も混ざっていた。色を微調整したのだろう」とヘンシルウッド氏はコメントしている。  太古の顔料に関する研究は、10月14日発行の「Science」誌に掲載されている。

Photograph courtesy Science/AAAS

文=Ker Than