水圧破砕法は、砂や化学物質と混ぜた水を地下に高圧で送り込んでシェール層を砕き、閉じこめられていた天然ガスや石油を解放する。環境面での批判もあるが、水平掘削技術と組み合わせた天然ガス生産は目覚ましい成果を挙げ、アメリカのエネルギー産業のあり方を一変させた。テキサス州、ルイジアナ州、コロラド州、ペンシルバニア州など、アメリカ国内の至るところで新資源の採掘が大きなブームとなっている。
ところが、経済不況や大幅な生産量増加により、天然ガスの価格が急落した。一方、石油価格は高値で安定しており、グレートプレーンズ地域では、天然ガス採掘技術の組み合わせを石油生産に応用する取り組みが進められている。
◆ゲームのあり方を変える可能性
シェールオイル(別名:タイトオイル)は、初期段階で既に明確な成功を収めていることから、今後数十年でアメリカの石油生産量は急増すると見込まれている。イギリスのエネルギー調査会社ウッドマッケンジー(Wood Mackenzie)のエネルギー担当アナリスト、ヒル・バーデン氏は、「“ゲームのルール”を変える可能性がある」と話す。
ブームはナイオブララ・シェール以外にも拡大している。ノースダコタ州からモンタナ州、カナダにまで広がる「バッケン・シェール」では、2005年にわずか3000バレルだった1日の石油生産量が、現在では40万バレルにまで増加した。
2010年のアメリカの石油生産量は2004年以降の最高水準で、1日550万バレルに達する。ノースダコタ州は最大の増加幅を記録した州となった。アメリカ国内の石油消費量は1日1900万バレルで、対外依存が解消するわけではないが、国内の供給体制を大きく支えることは間違いない。
シェールオイルの成功で、ノースダコタ州の経済は大きく変わった。ある町では何十年も人口減少傾向が続いていたが、石油採掘作業員の流入で増加に転じた。州政府は支出を増やしながらも、ノースダコタ住民に対する総額5億ドル(約380億円)の減税を決定した。当局の予測では、油井の数が今後20年でさらに2万基増える見込みだ。
同じ成功がテキサス州南部の「イーグルフォード・シェール」にも当てはまる。全長およそ480キロで、メキシコ国境からサンアントニオ南部を抜けオースティン北東部に至る地下地層に広がっている。2桁だった地域の失業率が改善し、各郡は新たな財源で潤った。今後数年で1日40万バレルの生産量に達すると予想されている。
新技術によって採掘事業も様変わりした。ハズレを引くリスクが低いため、「いかに早くその地を訪れて必要な土地を確保するか」が勝負の分かれ目になっている。
◆変化への備え
コロラド州エルパソ郡では、石油採掘の可能性を探る段階で借地を求める業者が相次ぎ、この1年ほどで借地代が3~4倍に高騰した。エルパソ郡の不動産鑑定士マーク・ローダーマン(Mark Lowderman)氏は、「1980年代半ばから、油井はもちろん、石油関連の借地契約など1件もなかった。しかし2009年以降、石油会社のために地下採掘権を地主と交渉する地権交渉人の登録数は2200人を超えた」と話す。
しかし、良い変化だけが訪れるとは限らない。「石油で豊かになれるとしても、環境にダメージを与えるようでは意味がない」とローダーマン氏は述べる。エルパソ郡の牧場では井戸水が使われているが、水圧破砕法で地下の帯水層が汚染される可能性が指摘されている。郡議会では、石油開発ブームを期待する一方、石油やガスの採掘が適正に行われるよう規制策定の準備を進めている。
Photograph by Mead Gruver, AP