史上初の首を持つ魚、ゆっくりと陸へ
2008.10.15
最新の研究によると、ティクタアリクは、脊椎動物が水から出て陸へ上がった重大事の先駆者であることは間違いないが、移行の進化過程は以前に想定されていたほど突然に生じたものではないという。
化石の頭蓋骨やエラ部分の骨、口蓋などを詳細に調査した結果、ティクタアリクが魚類と陸生動物の両方の身体的特徴を併せ持つ中間形態であることが確認された。魚類が浅瀬で生息する上で必要な進化であったと考えられる。
研究チームの一員で、アメリカのペンシルバニア州フィラデルフィアにある自然科学アカデミーのジェイソン・ダウンズ氏は、「ティクタアリクは、これまで陸生動物に固有のものと思われてきた頭蓋骨の特徴を持っている。つまり、こういった特徴は、最初は浅瀬で生息できるように適応する仕組みだったのだ」と話す。
今回の研究は「Nature」誌最新号に掲載される。
ティクタアリクについては、これまでの研究で、全長およそ3メートルのワニのような捕食動物で、浅瀬で生息するために適応した結果として、首や原始的な肺、足のようなヒレを持っていたことがわかっている。そして今回は、脊椎動物が水生から陸生へと移行する進化過程において、頭蓋骨も少しずつ複雑に変化していったことが明らかとなった。
ティクタアリクは、頭蓋骨の内部構造は原始魚類と共通点が多いが、頭部全体としては両生類に近い特徴を持っており、空気呼吸を行い陸上でエサを取る能力を持っていたという。
2004年の発掘チームの一員だった自然科学アカデミーの古生物学者テッド・デシュラー氏は、「今回の研究により、魚類から陸上四肢動物へと進化する過程は緩やかなもので、水生から陸生へと移行するには、足が進化するだけではまったく足りないことがあらためて確認された」と話す。「ティクタアリクは、原始的なヒレの魚類よりも空気呼吸や陸上移動の能力が優れていた可能性があるが、それでも生物の分類としてはまだ水生動物である」とダウンズ氏は語る。
ティクタアリクの頭蓋骨は魚類と異なる点があり、口蓋が平らで、頭部全体が頑丈な構造をしており、鰓蓋(さいがい)を支える舌顎骨(ぜつがくこつ)が非常に短い。その結果、ティクタアリクは、地球の歴史上初の首を持つ生物になったという。
ダウンズ氏は、「このような特徴からすると、ティクタアリクは、体内に水を吸い込むのが得意ではなかったと思われる。水中で暮らすには水の吸水・排水機能が欠かせない。ただし、ティクタアリクにエラ呼吸の能力がなかったというわけではない。エラの骨格自体は、原始的な魚類とまったく変わっていない。だから、ティクタアリクが空気呼吸を行うとすれば、頭を水面から出して空気を一口吸い込むという方法だっただろう」と話す。
以前は、魚類から陸生脊椎動物が急速に進化したと考えられていたが、ティクタアリクの頭蓋骨により、そこに中間形態が存在することが示された。「ヒレを持つ生物から足を持つ生物への移行過程はどのようなものだったのか。私たちはティクタアリクから少しずつ学んでいる」とダウンズ氏は話す。
スウェーデンにあるウプサラ大学の古生物学者ペール・アールベリ氏は次のように話す。「ティクタアリクの頭蓋骨は、さまざまな点でパンデリクティス(Panderichthys)を想起させる。パンデリクティスはティクタアリクよりも古い時代の魚類で、両生類に近い特徴を持っている」。
さらに、「ティクタアリクは保存状態が良いので、水生から陸生に移行する際に頭蓋骨がどのように再構築されたかよくわかる。ティクタアリクは、頭蓋骨の再構築という点ではパンデリクティスよりも進化が進んでいたようだ。生物進化をめぐるジグソーパズルのピースがまた1つ手に入った」と話している。
Model by Tyler Keillor, Photo by Beth Rooney