幼虫を操る“ゾンビウイルス”の遺伝子

2011.09.08
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バキュロウイルスに感染して死んだとみられるオオカバマダラの幼虫。

Photograph courtesy Michael Grove, Science/AAAS
 バキュロウイルスによる蛾の幼虫の“洗脳”は、たった1個の遺伝子によってなされていることが新しい研究で明らかになった。 このウイルスは、“ゾンビ化”した幼虫を木に登らせ、そこで宿主の体をドロドロの液状に変えてしまう。

「健康なマイマイガの幼虫は、夜間に木に登って葉を食べ、朝には木から降りて(樹皮の裂け目や土中に)身を隠し、日中はそこで捕食者を避けて過ごす」と研究の共著者で、ペンシルバニア州立大学の昆虫学者ケリ・フーバー(Kelli Hoover)氏は話す。

ところが、無脊椎動物に感染するウイルスの一種、バキュロウイルスに感染すると、幼虫は木のてっぺんに登り、そこでじっとしているように操られる。待っているのはホラー映画のように恐ろしい死だ。

「感染が進むと幼虫は木の上にとどまるようになり、そこで死ぬ」とフーバー氏は言う。バキュロウイルスは「幼虫のほぼ全身にウイルスを増殖させると、さらに他の遺伝子を用いて幼虫の体を溶かす。幼虫の体はウイルス粒子を無数に含んだ液体となってしたたり落ち、それより下に生い茂る木の葉に付着する。それを食べた他の幼虫にまたウイルスが感染する」。

◆ウイルスの見事な操縦術

 幼虫をゾンビ化するウイルスの存在は以前から知られていたが、遺伝子レベルでのメカニズムは謎だった。

 そこでフーバー氏の研究チームは、マイマイガの幼虫を数種類のバキュロウイルスに感染させ、底に餌を置いた背の高いボトルに入れた。すると、EGTという遺伝子を持っていたバキュロウイルスは、感染した幼虫をボトルの最上部まで登らせ、死ぬまでそこにとどまらせた。

 一部のウイルスからEGT遺伝子を取り除き、再び幼虫に感染させたところ、今度は幼虫は高いところに登らなかった。もともとEGT遺伝子を持っていなかったウイルスにEGTを組み込むと、再び幼虫は操られた。

「この遺伝子を何らかの形で用いることで、バキュロウイルスは幼虫の行動を操り、木の上の、新たな宿主に感染を拡大するのに好都合な場所へ行かせている。実に見事だ」とフーバー氏は言う。

 この遺伝子は、宿主の脱皮ホルモンを不活性化することで、幼虫を操っている可能性が考えられる。

「脱皮しないのはウイルスにとって好都合なことだ。幼虫は餌を食べ続けることになるので、どんどん体が大きくなり、そのぶん多くのウイルスが作れる」。

◆マイマイガの天敵

 フーバー氏によると、バキュロウイルスには多くの異なる種類があり、幼虫期を持つ生物種のほとんどすべてが、1種類かそれ以上のバキュロウイルスに感染するという。

 しかし、自然発生するこれらのウイルスは、マイマイガの種全体に大きな影響を及ぼすことはないとフーバー氏は話す。マイマイガは増えたり減ったりを繰り返す傾向にあるため、ガの数が少ない時期にはウイルスも増えない。

 しかし、マイマイガが侵入地域を拡大すれば、ウイルスも爆発的に増え、幼虫の大発生を自然に抑えていると考えられる。

「バキュロウイルスはおそらくマイマイガの幼虫とともに北米に渡ってきた。マイマイガにとってはまさに天敵だ」とフーバー氏は語った。

 今回の研究は、「Science」誌の9月9日号に発表された。

Photograph courtesy Michael Grove, Science/AAAS

文=Brian Handwerk

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