1億6000万年前のこの化石標本により、有胎盤類と有袋類の系統が進化上枝分かれした時期が、従来考えられていたよりも3500万年早まることになる。この動物が現代の有胎盤類の直接の祖先かどうかは不明だが、「大伯母にあたるか、あるいは曾祖母にあたるかだ」と研究論文の著者らは話す。
ネズミからクジラまでを包含する有胎盤類は、真獣類と呼ばれる哺乳類の中で唯一生き残っているグループだが、ジュラマイア・シネンシスは、これまで知られている中で最古の真獣類だ。
真獣類は最初、有袋類(お腹に育児嚢を持ち、比較的未成熟な状態の子どもを産む)の祖先から枝分かれして進化した(哺乳類にはもう1つ、カモノハシなどの単孔類があり、こちらは卵を産む)。
今回発見された真獣類は、木登りに適応した前肢を持ち、温暖なジュラ紀の森林を素早く走り回り、夜陰に紛れて昆虫を食べていた。この食事で得られる体重は15グラムほどで、シマリスよりも軽かった。
ピッツバーグにあるカーネギー自然史博物館の古生物学者、羅哲西(Luo Zhe-Xi)氏は「人類を含む進化上の大きな系統は、ごくささやかな体重を持つ動物から始まったのだ」と話す。この化石は、羅氏が率いる研究チームが発見した。
◆幸運に恵まれた有胎盤類と有袋類
真獣類は、後にカンガルーなどの有袋類へとつながる後獣類と呼ばれる哺乳類の系統から分かれて進化した。
どちらの系統も最初は小型で、幸運なことに、地上を闊歩する多くの恐竜やほかの哺乳類の手が届かない森林の林冠部へと移っていった。「いったん樹上に出てしまえば、地上の動物では手に入らない、まったく別の生態学的な可能性がすべて開けてくる」と羅氏は話す。
真獣類と後獣類の大きな違いは手根骨と歯にある。特に違うのは、真獣類の臼歯が後獣類よりも少ない点だ。ジュラマイア・シネンシスの歯は、羅氏の目に「まさに飛び込んで」きて、「それが真獣類である」と告げていたという。
◆謎に包まれた有胎盤類の分岐
今回の発見で、化石記録とDNA解析のずれが解消されたと羅氏は言う。DNAの証拠は以前から、有袋類と有胎盤類の祖先の枝分かれが1億6000万年前頃に起こったことを示唆していた。
しかし、この時期に何が起こって進化上の分岐を促したかは、いまだに謎に包まれてたままだ。「有袋類と有胎盤類が分化し始めたという事実以外ではっきりしているのは、ほかの哺乳類も多様化していたということだ。だが、具体的にどんな環境変化がその引き金になったかはわからない」と羅氏は話している。
有胎盤類についての研究結果は、8月25日発行の「Nature」誌に掲載された。
Illustration courtesy Mark A. Klinger, Carnegie Museum of Natural History