古代の昆虫、巨大化の謎に新説

2011.08.09
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先史時代の地上を飛び回っていたカモメほどの大きさのトンボ(想像図)。

Illustration by Ned M. Seidler, National Geographic
 3億年前、現代のカモメほどの大きさの肉食トンボが我がもの顔で空を飛び回っていた。トンボをはじめ、この時代の昆虫がどうしてこのように巨大化したのかは長い間謎とされてきた。 現在主流の説では、古代の昆虫は当時の地球大気の酸素濃度が高かったおかげで巨大化したとされている。しかしこのほど発表された研究によると、酸素がありがた迷惑だった可能性もあるという。酸素の毒性を避けるために、昆虫の幼虫は大型化する必要があったというのだ。

 研究論文の共著者でイギリスにあるプリマス大学のウィルコ・バーバーク(Wilco Verberk)氏は、「巨大化の原因は、酸素が成虫に影響を与えたことだけでなく、酸素が幼虫の方により大きな影響を及ぼしたことにあると私たちは考えている」と話す。

「だから、幼虫に目を向けることで、まず第一にこのような動物が存在した理由について、そしておそらくはそれらが絶滅した理由についても、より深い理解につながるだろう」。

◆幼虫は呼吸を調整できない

 3億5900万年前から2億9900万年前まで続いた石炭紀には、巨大なトンボや巨大なゴキブリがありふれた存在だったことが化石から分かっている。この時代、広大な低湿地に森林が拡大したことで、大気中の酸素濃度が、現在の1.5倍近い30%ほどに達していた。

 これまでの説は昆虫の巨大化について、酸素の豊富なこの環境のおかげで、昆虫の成虫がどんどん大型化しても必要なエネルギー需要を満たすことができたと説明していた。

 バーバーク氏と共同研究者のデイビッド・ビルトン(David Bilton)氏による新たな研究では、さまざまな酸素濃度がカワゲラの幼虫にどのような影響を及ぼすかに焦点が当てられた。カワゲラはトンボと同じく、幼虫の段階では水中に生息し、成虫になってから地上で暮らすようになる。大気中の酸素濃度が高かったということは、水中に溶け込む酸素の濃度も高かったと考えられる。

 実験の結果、カワゲラの幼虫は地上で暮らす成虫よりも酸素の変動の影響を受けやすいことが分かった。

 理由として考えられるのは、昆虫の幼虫は通常、皮膚から直接酸素を吸収しているため、摂取する気体の量を厳密に調節することがほとんど、あるいはまったくできないということだ。これに対して成虫は、体表にある気門と呼ばれる弁のような孔を開いたり閉じたりして酸素の摂取を調節できる。

 酸素は生命の維持に不可欠な物質ではあるが、大量に存在すると毒にもなり得る。人間が過剰な酸素にさらされると、細胞が損傷を受け、その結果、視覚障害や呼吸困難、吐き気、けいれんなどに襲われることがある。

 古代昆虫の多くの種でも、幼虫が水中から酸素を受動的に取り込んでいて、摂取量をうまく調節できなかった可能性がある。酸素濃度が非常に高かった時代には、きわめて危険な状態だ。

 酸素毒性のリスクを減らす1つの方法が、巨大化することだったと考えられる。体の大きさに対して相対的に見れば、取り込む気体の量の比率は、幼虫の体が大きいほうが低くなる。「体が大きくなれば、体積当たりの表面積は小さくなる」とバーバーク氏は説明する。

◆酸素濃度が下がって、昆虫の動きが悪くなった?

 バーバーク氏によると、この新説で、地球大気の酸素濃度が下がり始めてからも巨大昆虫が生存し続けた理由にも説明がつく。

「体の巨大化が、酸素毒性を避けるという形で、酸素の能動的な作用として進んだのだとしたら、酸素濃度が下がったからといってただちに命に影響することはない。ただし、時間が経つにつれ大きな昆虫の生活能力はおそらく落ちていった」。成体は大量の酸素を必要とするように進化してきたため、酸素が薄くなった大気中では動きが緩慢になっただろうからとバーバーク氏は話す。

「このように能力が落ちると、巨大種はいずれほかの種に生存競争で打ち負かされるようになったはずだ」。

 巨大昆虫についての研究は、7月27日に「PLoS ONE」誌のWebサイトに掲載された。

Illustration by Ned M. Seidler, National Geographic

文=Ker Than

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