深海の“煙突”から吹き上がる火山性の熱水。2011年夏、北大西洋で初めて深海の熱水噴出域が発見された。

Photograph courtesy Provision/Marine Institute
 北大西洋の深海で、非常に珍しい火山性の熱水噴出域が発見された。アイルランドの深海調査船「ケルティック・エクスプローラー」による潜水調査で、“煙突(チムニー)”が海底に列を成す様子が撮影されている。 場所は大西洋を縦断するように伸びる中央海嶺付近で、ゆっくりと離れていくプレートが海底の山脈を形成する。

 研究チームのリーダーでアイルランドにあるユニバーシティ・カレッジ・コークの地質学者アンディ・ウィーラー氏は、「ポルトガルから約1000キロ西方にあるアゾレス諸島の北側の海嶺で、水深はおよそ3000メートルに達する」と話す。

「遠隔操作無人探査機(ROV)を、急傾斜の断層崖(だんそうがい)沿いに下ろしていった。側面はバクテリアの粘液で覆われており、やがて、上昇する噴煙が見えてきた。下降を200メートル続けて断崖絶壁の下に到着すると、何本ものチムニーがそびえ立っていた」。

 深海のチムニーは、火山性の熱水が金属硫化物を海底から湧き上げて生まれる。鉱物が海水に接触して沈殿し、しだいに積み重なるにつれてデコボコの塔に成長する。

 ROVと調査船をつなぐケーブルは3000メートル余りだったので、あまりに深い場所ではチムニーの先端や崖の側面しか調査できなかったという。

 チムニーだらけの熱水噴出域は、アイルランド神話に語られる戦場から「モイトゥラ」と名付けられた。「柱の平原」という意味である。

「モイトゥラのチムニーは多くの場合、地上の鉱石層に比べて金属の含有度が高い。経済面でも重要な価値を持つだろう。現在、サンプルを分析して、鉱物資源としての可能性を探っている」とウィーラー氏は述べる。

 深海のチムニーは時間と共に成長を続け、ある意味で“再生可能”な資源といえる。

◆深海の生物

 熱水噴出域の周囲には多様な生物が生息し(主にバクテリア)、独自の食物連鎖系を形成している。暗闇や圧倒的な水圧に適応する嫌気性、好熱性の微生物が厚い層を作り、それをエサとするエビやカイアシ類の住処となっている。

 高解像度の画像と映像、採取されたサンプルからは、オレンジ色のエビや、うねうねと動くウロコムシ、ウナギのような魚、渦巻くバクテリアの塊などが確認された。

「あるエビは眼が完全に失われており、胸の先端に近赤外線を検知できる器官を発達させていた」とウィーラー氏は説明する。この不思議な光受容器は、水晶体がないので像を形成することはできないが、熱水の噴出で生まれるほんのかすかな光でも検知できる性能があると考えられる。「生物が孤立し、過度な進化が起きた好例だ」。

 収集した生物は研究室で分析が行われ、かなりの成果が期待できそうだ。研究チームの一員でアイルランド国立大学ゴールウェイ校の海洋生物学者パトリック・コリンズ氏は次のように話す。「さまざまな疑問に対する解答が得られ、熱水噴出域の生態系をめぐる研究史のページが進むはずだ。ただし、新たな疑問が現れることも間違いない」。

◆深海の謎

 解明の見込みがある謎の一例は、「この海域の生物がどこからやって来たのか」である。

 モイトゥラは孤立した熱水噴出域だ。火山島のアゾレス諸島南側と、アイスランド北側の噴出域の中間点に当たる。では、生息している生物は北と南のどちらに起源を持つのだろうか。

 ウィーラー氏は、「アゾレス諸島南側の種との関係は間違いない。アゾレス海台の浅い海域をどのように乗り越え、再び深海に達したのか解明したい」と語る。

 研究チームの一員でイギリス、サウサンプトン大学の海洋生物学者ジョン・コプリー氏も期待を述べる。「意外に早く多数の謎が解けるかもしれない。西ヨーロッパに近い熱水噴出域なので、今後も継続して調査しやすい」。

Photograph courtesy Provision/Marine Institute

文=Brian Handwerk