月はかつて2つあった?

2011.08.02
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現在の月。地球に近い側(右側)は、遠い側と比べてはるかに平坦だ。

Photograph courtesy NASA
 かつて地球には月が2つ存在したが、一方は他方にゆっくりと衝突して消滅し、その結果、現在の月には起伏の激しい側と平坦な側が生まれたという新たな説が登場した。 月には、常に地球のほうを向いている“表側”と、地球からは見えない“裏側”があるが、両半球に違いがあることは、長らく天文学者の間で謎となっている。表側の地形は比較的高度が低くて平坦なのに対し、裏側は高くて山が多く、地殻がはるかに厚い。

 新たなコンピューターモデルによると、この違いは、月より小さな“随伴衛星”が、初期のころに月の裏側に衝突したと考えることで説明がつくという。そのような衝突が起こると、非常に硬い岩石物質が月の裏側に飛び散る結果となり、それが現在、月の高地を形成しているというのだ。

 この説が事実なら、小さいほうの月は、大きいほうの月に時速約7100キロでぶつかった計算になる。

「質量の大きい2つの物体が互いの重力に引かれてぶつかったとすると、これは考えられる限り最も速度の遅い衝突だ」と研究共著者でカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)の惑星科学者であるエリック・アスフォーグ(Erik Asphaug)氏は話す。

 そのような比較的遅いスピードで月の裏側に衝突した場合、岩石が溶けたり、クレーターができたりするほどのエネルギーは生じなかったはずだ。代わりに、小さいほうの月の物質が、大きいほうの月の表面にまき散らされたと考えられる。

「自動車の衝突と同じで、バンパーはつぶれても互いの車体が溶けたりはしない。それと同様の現象だ」とアスフォーグ氏は言う。

◆月の衝突で地球に流星群

 アスフォーグ氏と、UCSCの博士研究員マーティン・ジャッツィ(Martin Jutzi)氏が提唱した今回の説によると、2つの月は8000万年ほどの間は何事もなく共存し、それぞれの安定した軌道上にあったという。2つの月は色も組成も同じだったが、一方が他方より3倍ほど大きかったとアスフォーグ氏は述べている。「現在残っているほうの月が空に浮かぶ姿は、大きなディナープレートのようで、それが沈むと、もうひとつの月が約60度遅れてその後を追った」。

 今回のモデルによると、2つの月が共存したこの短い期間は、地球との自然な重力の相互作用により、2つの月が地球から遠ざかっていったことで終わりを告げたという。太陽の重力が作用して小さい月の軌道が不安定になり、大きい月に引き寄せられたのだ。

 さほど激しいぶつかりあいでなかったとはいえ、2つの月の衝突は、何兆トンもの破片を宇宙空間に放出し、数日間は2つの月がはっきり見えなくなったほどだと考えられる。「この塵が晴れたとき、月はひとつになった。現在見える月と同様の姿になったのではないか」とアスフォーグ氏は言う。

 そして衝突から最大100万年の間、さまざまな大きさの月のかけらが地球に降り注いだとみられる。大きいもので直径100キロにも及んだ可能性がある。「長期間、空一面に流星が降り注いだことだろう」とアスフォーグ氏は言う。しかし、おそらく地球上には、この見事な天体ショーを目撃する生物はまだ存在しなかったはずだ。

◆月の衝突説が提示する新たな謎

 ハワイ大学の天文学者ジェフリー・テイラー氏は、月に関する今回の新説は非常に興味深く、さらなる調査に値するものだと評している。

 テイラー氏によると、アスフォーグ氏とジャッツィ氏の説は、月の非対称性を説明するだけでなく、別の説において月とともに形成されたと考えられている小さな随伴衛星たちがどうなったのかも、これで説明がつくという。

 そもそも月はどのようにして形成されたのか。これに関しては、45億年前の太陽系の誕生直後、火星サイズの惑星が地球に衝突したときに生まれたというのが、ひとつの有力な説だ。

 この初期の衝突によって、溶岩の破片が地球を環状に取り巻き、それがやがて集合して現在の月を含むいくつかの天体になったと考えられている。

 だが、「それが事実なら、(ほかの小さい月たちは)どうなったのか? その答えが、今回の説かもしれない」とテイラー氏は言う。なおテイラー氏は、今回の研究には参加していない。

 とはいえ、今回の新説に問題がないわけではない。例えば、起伏の激しい月の裏側に、アルミニウムが豊富に存在する理由を説明できないとテイラー氏は言う。

 2つの月が仮説どおり同じ組成でできていたのなら、随伴衛星やそれが衝突時に撒き散らした物質には、現在の月の内部と同様、アルミニウムの含有量は少なかったはずだ。

 しかし、この疑問は、今後の月の研究で解明される可能性があり、今回の説自体を否定するほどの深刻な問題ではないとテイラー氏は述べている。「むしろ、解明するべき面白い謎を新たに提供してくれる説だ」。

 この研究の詳細は、「Nature」誌の最新号に掲載されている。

Photograph courtesy NASA

文=Ker Than

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