ボーフォート海を泳ぐホッキョクグマ(資料写真)。

Photograph by Steven Kazlowski, Alaska Stock Images/National Geographic
 1頭のメスのホッキョクグマが、これまで知られていた中では最長となる連続9日間、687キロの海中移動を行ったことが、最新研究により明らかになった。687キロといえば、東京-函館間の直線距離に相当する。 このホッキョクグマが記録的な距離を泳いだのは、北極海の一部であるボーフォート海だ。ボーフォート海では、地球温暖化の影響で海氷が減少しているため、母グマは陸地や海氷を求めてより長い距離を泳いで移動せざるをえず、それが子どもの生命を危険にさらしている。

 例えば、今回記録を打ち立てた母グマの子どもは、海中移動を開始してから、次に母グマの所在が陸地で確認されるまでのいずれかの時点で死亡していた。その間には、母グマの体重も22%失われていた。

「以前はこれほど長距離を泳ぐ必要はまずなかったと考えられる。ホッキョクグマの進化の歴史上、陸も氷もない水域が687キロにもわたって続いていることは、ほとんどなかったからだ」と今回の研究の共著者で、ホッキョクグマの保護に取り組む団体「ポーラー・ベアーズ・インターナショナル」の主任科学者スティーブン・アムストラップ(Steven Amstrup)氏は話す。アムストラップ氏は以前、アメリカ地質調査所(USGS)でホッキョクグマ研究のプロジェクトリーダーも務めており、今回の研究はUSGSの主導で行われた。

 もう1頭、別のメスも12日間以上にわたって泳いだことが判明したが、こちらは移動の途中に場所を見つけて休んだとみられる。

◆長距離の海中移動で子グマの死亡率が向上

 生物学者の研究チームは、メスのホッキョクグマ68頭に首輪を装着し、2004年から2009年にかけてその移動を追跡した。このとき、研究共著者で、世界自然保護基金(WWF)でホッキョクグマを研究する生物学者のジェフ・ヨーク(Geoff York)氏が言うところの「技術と設計上の偶然」によって、ホッキョクグマの所在を示すデータに欠落があることに研究チームは気づいた。チームはその後、データの欠落箇所は、クマたちが海中にいた時期と相関していることを突き止めた。

 チームはGPSデータをもとに、メスのホッキョクグマたちが長距離(50キロ以上)の海中移動を通算50回行っていたことを明らかにした。そして、このデータと、子どもの生存率との相関を調べた。

「その結果、長距離の海中移動を行うホッキョクグマほど、子どもを失う確率が高かった」と研究の共著者で、アラスカ州アンカレッジで活動するUSGSの研究動物学者、ジョージ・ダーナー(George Durner)氏は話す。

 長距離移動の開始前に子どもを連れていた母グマ11頭のうち5頭が、再び陸地で確認されるまでの間に子どもを失っていたという。

◆続く海氷の減少

 1995年まで、海氷は夏の間も、ボーフォート海の大陸棚沿いに残っているのが通常だった。アザラシの多いボーフォート海は、ホッキョクグマにとって重要な生息域だ。ところがダーナー氏によると、現在、ボーフォート海とチュクチ海では、海氷が沿岸から数百キロも後退しているという。

 2010年、北極の海氷域面積は、観測史上3番目に小さい数値を記録した。コロラド州ボルダーにある国立雪氷データセンターによると、原因の一端は、海氷が長期にわたって減少傾向にあることで、この傾向は今後も数十年続くという。

「したがって、長距離の海中移動を余儀なくされる状況は、この先も長期に続く可能性が高く、そして、子グマの死亡率が長距離移動と直接関連しているとすれば、このことはホッキョクグマの個体数に悪影響を及ぼすだろう」とダーナー氏は述べている。

 子グマが海でおぼれるのか、それとも、凍えるほど冷たい水の中を長距離にわたって泳ぐという、代謝に負担のかかる運動をするために、陸地や氷の上に着いた後で死んでしまうのかは定かではない。

 今回の研究成果は、カナダのオタワで開かれている第20回国際クマ会議で発表された。学術誌にはまだ発表されていない。

Photograph by Steven Kazlowski, Alaska Stock Images/National Geographic

文=Ker Than