最高のスピードとスタミナを兼備する鳥

2011.06.01
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ポーランドで撮影されたシギの仲間、ヨーロッパジシギ(資料写真)。休憩を挟まず高速で長距離移動するタイプとしては、最高レベルの能力を有するようだ。

Photograph by Klaus Nigge, National Geographic
 シギの仲間のヨーロッパジシギは、非常に優れた飛行能力を備えている。少し太めで地味な小さな鳥だが、休憩を挟まず長距離移動するタイプとしては最速レベルになると研究チームはレポートしている。 ヨーロッパジシギは、出発地スウェーデンからヨーロッパ大陸を縦断、サハラ以南のアフリカまで飛び続ける。平均時速は約100キロに達し、4300~6800キロの距離を休憩を取らずに2~4日間で移動することが明らかになった。

 2009年5月、研究チームは飛行経路を追跡調査するため、スウェーデン西部の繁殖地で10羽を捕獲し、位置情報を記録する装置(ジオロケーター)を取り付けた。約1年後、スウェーデンで3羽を再捕獲し追跡データを得たという。

 一見すると、ヨーロッパジシギは高速で長距離の渡りをする鳥には相応しくない。体は小さく“ずんぐり”型で、空気抵抗も受けやすい。秋にはまるまると太るため、19世紀の文献には「銃で撃たれて地面に落ちると体が破裂することもある」と書かれているほどだ。

「しかし、この太った体に蓄えられた脂肪が、長距離を休まず移動する原動力となっている」と、研究を率いたスウェーデンのルンド大学の生物学者レイモンド・クラーセン氏は話す。「渡りの時期までに、体重が約2倍に膨れ上がるんだ。飛行中はこの脂肪分が燃料の役割を果たす。アフリカに着くころには脂肪がなくなり、精根尽き果てた状態になる」。

 飛行距離が長く、速度も高い鳥は珍しい。例えば小型の渡り鳥キョクアジサシは、北極圏と南極圏間の最大8万キロを季節移動するが、期間は数カ月におよび、途中で魚などのエサも調達する。また、速度に限って言えば、ハヤブサの最高時速は約320キロに達するが、獲物を捕らえる一瞬だけだ。

 速度と距離の両面でヨーロッパジシギに近い鳥は、同じシギ科に属する渡り鳥オオソリハシシギしかいない。2007年の研究では、アラスカからニュージーランドまでの1万1500キロ以上を9日間で移動した記録が残されている。平均時速は約56キロだった。

「オオソリハシシギは、海の上を飛行する点でヨーロッパジシギとは異なる。途中で羽を休める場所がないため、必然的に飛び続けるしかない」とクラーセン氏は述べる。

「ヨーロッパジシギのルートは大陸上空だ。休憩を取れるはずなのに、秋のアフリカへの季節移動では休まない。その理由はまだわかっていない。なにしろ春にスウェーデンへ帰るときには、何度か休憩を取るんだ」。

 ヨーロッパジシギがほとんど睡眠を取らずに、これほど長い距離を移動できるのはなぜなのか。他の渡り鳥と同様その理由は不明だ。

 クラーセン氏は、「渡り鳥の長距離飛行にはわからないことが多い」と言う。「脳の半分を覚醒させておき、もう半分を眠らせておく“半球睡眠”を利用しているという説が有力だ。肺呼吸するイルカも、左右の脳を交互に休ませて睡眠を取る。まったく眠っていない可能性も捨て切れないが、睡眠の大切さは生物全般に当てはまるため、それは考えにくいと思う」。

 同氏によると、渡り鳥の移動のメカニズムについては未知の部分が多いため、今回の記録もすぐに破られる可能性があるという。

「多くの種は追跡調査が行われておらず、生態がほとんどわかっていない。しかし超小型の追跡装置が発達したため、近い将来また驚くような発見があるだろう。渡り鳥の研究は大きな転換期を迎えている。我々にとっては胸が躍るような時代さ」。

 今回の研究は「Biology Letters」誌オンライン版に5月25日付けで発表された。

Photograph by Klaus Nigge, National Geographic

文=Ker Than

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