抗うつ剤が脅かす五大湖の生態系

2011.05.26
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アメリカ、ペンシルバニア州にあるプレスク・アイル州立公園。プレスク・アイル灯台がエリー湖岸を見下ろしている。

Photograph by Daniel Dempster, Alamy
 下水道に流れ込んだ抗うつ剤が、生態系に重大な影響を及ぼす可能性が明らかになった。 アメリカ、ペンシルバニア州北西部のエリー市で、抗うつ剤「プロザック」に含まれる有効成分フルオキセチンが微量検出された。これが五大湖の微生物を大幅に減少させているという。

 プロザックなど抗うつ剤は、微量ながら世界中の飲料水や親水施設で検出されている。専門家によれば、人体に影響を及ぼすほどの量ではないという。しかし、軟体動物の生殖系はダメージを避けられず、魚などの脳に作用する可能性もある。

 一方、細菌に与える影響も専門家は案じている。「細菌なんて一切いなくて構わないと考えるかもしれない。しかし、生態系の一部としての役割を担う場合もある。すべて死滅させて良いわけがない」と、エリー市マーシーハースト・カレッジの微生物学者スティーブ・マウロ氏は語る。同氏の研究チームは、五大湖の一つエリー湖で、岸近くの水から低濃度のフルオキセチンを検出した。

 湖のきれいな水に同濃度のフルオキセチンを加えてみると、大腸菌と腸球菌が死滅した。この2種はいずれも人間に重度の感染症を引き起こす可能性がある。

 エリー湖で検出されたフルオキセチンは、水1リットルあたり1ナノグラムと非常に低い濃度だった。「人間に有害なレベルではないと見られる。無脊椎動物にも影響はないだろう」とマウロ氏は話す。ただし、他の化学物質と混合すると、湖の生態系により大きな効果を及ぼすのではないかと推測している。

 抗うつ剤の侵入経路も解明が待たれている。人体に取り込まれたフルオキセチンは、尿を通じて下水道に入ると考えられている。また、未使用の抗うつ剤がキッチンシンクなどにそのまま捨てられると、事態はさらに厄介になる。通常、下水処理施設ではろ過されないからだ。

 ところが、エリー湖のプレスク・アイル州立公園付近で検出されたフルオキセチンは、「どこから入ってきたのかがわからない。湖岸に汚水が直接流れ込んでくる場所がないのだ」とマウロ氏は述べる。「湖中に拡散している可能性もある」。

 研究成果は5月23日、第111回米国微生物学会総会で発表された。

Photograph by Daniel Dempster, Alamy

文=Rachel Kaufman

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