人間は“超人的な聴力”を獲得できる?

2011.05.18
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水中のダイバーは陸上の人間よりも音がよく聞こえる(資料写真)。

Photograph by Wes C. Skiles, National Geographic
 人間はやがて、聞き取れないはずの音を聞き取れるようになるかもしれない。耳骨の振動によって、音が脳に伝わる道が短縮され、聴力が高まる可能性が明らかになった。 人間が聞き取れる音の範囲(聴野)は通常、20ヘルツ(Hz)から20キロヘルツ(kHz)である。「20キロヘルツの音はカ(蚊)の羽音のような甲高い音、20ヘルツは間近で聞くベースギターのような低い音だ」とアメリカ、コネティカット州にある海軍潜水医学研究所(Naval Submarine Medical Research Laboratory)の上級科学研究員マイケル・シン氏は説明する。

 特定の条件下では、人間は聴野の範囲外の音も聞き取ることができる。シン氏が行った実験によると、例えば潜水中のダイバーは100キロヘルツまでの音を聞き取れたという。「おそらく音が骨から脳へ直接伝わっているのだろう」。

 通常、大気中や水中を流れる音波は外耳道(耳の穴から鼓膜までの部分)を通って鼓膜に伝わる。鼓膜の振動はツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨という3つの耳小骨に伝達される。この3つの骨はつながっており、形状がそれぞれ金槌、ハンマー台、あぶみに似ている。

 アブミ骨に伝わった振動は、リンパ液で満ちた内耳器官「蝸牛」(かぎゅう)に届く。カタツムリに似た形状の蝸牛には極小の有毛細胞がある。この細胞がリンパ液に生じた波を感じ取って神経信号に変換し、音として脳に伝えるのである。

 シン氏は、「振動が直接神経に伝わる“骨伝導”や水中での聴音では、この一連のプロセスがいくつか省略されている」と述べる。例えば骨伝導は、非常に高い周波数の音が耳骨をダイレクトに刺激し、信号が鼓膜を介さず脳に直接伝えられる。あるクジラの種はこの方法で水中の音を聞き取っている。

「水中での聴音と骨伝導による聴音の仕組みを理解し、両者のメカニズムは同じかどうか確認したい」とシン氏は語る。

 また、超音波によって蝸牛内のリンパ液が直接刺激されることもある。「レンチで水タンクを叩くと、水自体が振動するのと同じだ」。

 シン氏のチームは現在、超音波振動に最も敏感な骨を特定する研究を進めている。この研究がやがて、超人的な聴覚をもたらす装置や高性能な補聴器を生み出す可能性はあるのだろうか? シン氏は明言を避けている。「物事の本質がわかり、様々な分野に応用できる。基礎科学の素晴らしい点だ」。

 シン氏の研究は、5月後半にシアトルで開催される米国音響学会(ASA)の年次会合で発表される。

Photograph by Wes C. Skiles, National Geographic

文=Ker Than

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