寄生菌感染したゾンビアリ、正午に死す

2011.05.12
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“ゾンビ”と化したオオアリが葉にかみついている(2007年撮影)。

Photograph courtesy David Hughes
 ある寄生性の菌類はタイに住むアリを“ゾンビ”に変えてしまう。最新の研究から、身の毛もよだつ感染がどのように進行するか紹介しよう。 この菌類(Ophiocordyceps属)はタイの熱帯雨林の上層部、いわゆる林冠に暮らすオオアリを標的にする。オオアリの神経系を乗っ取り、奇妙なほど具体的な異常行動をとらせる。菌類の繁殖を助けるためだ。

 感染して完全にゾンビ化するまで3~9日ほどかかる。それまでは、しばらく自分の巣でほかのアリと接触し、エサも食べるなど、いつも通りの生活を送る。

 アメリカ、ペンシルバニア州立大学の昆虫学者で、研究を率いたデイビッド・ヒューズ氏は、「菌類と本来のアリが体の中で入り交じっている状態だ」と話す。「時間とともに菌類の割合が増し、最終的にはアリとして行動できなくなる」。

 アリと菌類の相互作用を評価するため、数年前からタイに生息するオオアリ(学名:Camponotus leonardi)の研究が続けられてきた。例えば、ヒューズ氏らは2009年の論文で、菌類が宿主に驚くほど具体的な“命令”を出すと報告している。

 正常なアリはめったに樹上の道からそれないが、ゾンビアリは当てもなくさまよい、痙攣(けいれん)を起こして林冠から落下する。落ちたアリは森林の下層、地面から25センチくらいの位置に留まる。涼しく湿気が多い環境で、菌類の繁殖にうってつけの場所だ。

 数日後、菌類はアリに1枚の葉をかませる。そして、アリの頭の中で増殖した菌類の細胞が、下顎を開閉する筋肉の繊維をばらばらにしてしまう。

 この結果、アリは“開口障害”で痙攣を起こし、たとえ絶命しても葉をがっちりとくわえ続ける。菌類がアリの体外に向けて成長するためのベースができたというわけだ。ここまで来ると、菌類は毒を使い、宿主を殺してしまう。

 さらに数日後、絶命したアリの頭部から、菌類の子実体が伸びてくる。雄ジカの枝角にも似た子実体は胞子を放ち、近くを歩いている別のアリに付着する。ヒューズ氏によると、感染してから胞子が放たれるまでの期間は約2、3週間だという。 2009年の研究では、子実体が生えたアリのほとんどが湿度95%、温度20~30度の場所で発見された。

 この物語には新たな展開がある。多くの場合、太陽光が最も強い正午に、菌類がとどめを刺していることがわかったのだ。「ちょうど良い締めくくりのタイミングを光の強さに合わせているのかもしれないが、まだ憶測にすぎない」とヒューズ氏は語る。

 また、最新の研究によって、菌類がアリの脳を直接狙わないことも示された。脳や神経系に影響を及ぼす化合物を分泌しているという。「この化合物は体の動きを制御する運動ニューロンに影響を及ぼしている可能性が高い。身体器官の萎縮から推測した仮説にすぎないが」とヒューズ氏は電子メールで述べている。

 同氏は最終的に、この研究を生物農薬などに応用したいと考えている。例えば、湿気を含んだ木に巣をつくるオオアリの多くの種は、建造物に被害をもたらすことがある。

 研究結果は、「BMC Ecology」誌の5月9日号に掲載されている。

Photograph courtesy David Hughes

文=Ker Than

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