カナダのアルバータ州、天然ガス井に囲まれた村では、メタン汚染により水道水に火がつく。

Photograph by Wil Andruschak
 柔らかい岩石層「シェール層」を採掘して天然ガスを生産する手法が近ごろ注目されているが、それに伴う環境汚染も明らかになってきた。最新の研究では、シェールガス採掘地域の飲み水へのメタン流出を示すデータが初めて体系的に収集され、従来の想定よりはるか遠方でも着火濃度のメタンが検出されている。 アメリカにあるデューク大学の研究チームは、ペンシルバニア州北東部の60カ所の家庭用井戸からサンプルを採取した。同地では、地下に堆積するシェール層に天然ガスが豊富に存在し、水圧破砕法(フラッキング)によって採掘が進められている。

 報告によると、操業中のガス採掘地では、ガス井に近いほどメタン濃度が上昇しており、また、ある採掘地から1キロ離れた場所でも、着火濃度のメタンを含む飲み水が確認されたという。採掘地付近の井戸と遠い井戸を比較すると、平均17倍のメタン濃度が検出された。

 水圧破砕法は、地下深くの岩石層に水を押し入れ、岩石がひび割れるまで圧力を高め、天然ガスを解放する手法である。環境面の問題が指摘されており、今回の研究もそれを裏付けている。

 アメリカやカナダでは、過去6年間にわたるこの新技術の成功実績により、広大な天然ガスの新貯蔵庫の扉が開け放たれた。シェールガス開発が順調に進めば、2035年にはアメリカの天然ガス生産の45%を占めると見込まれている。アメリカ政府は、世界32カ国でも同様のシェール層が利用可能だとする報告を発表した。

 しかし、天然ガスの主成分メタンによる飲み水汚染がクローズアップされている。本年度のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた映画『ガスランド』では、民家の水道水が燃える印象的なシーンが注目を集めた。

 研究チームのリーダーを務めたデューク大学の環境科学者ロブ・ジャクソン氏は、「シェールガス採掘を今後も続けていくためには、監視体制の拡充、知識の蓄積、そしておそらくは規制強化が必要となる」と述べる。

 メタン汚染の原因が、ガス採掘以外に存在する可能性も残されている。今回の研究では、採掘地からの距離に関わらず、サンプルを採取した井戸の大半でメタンが検出された。ただし、距離とメタン濃度には確実な相関関係が認められている。

 流出の可能性を認める採掘業者もあり、不適切なガス井建設が原因だと主張している。ジャクソン氏は、「ガス井の掘削中、セメントのケーシングに穴が開く可能性はある。その場合は手順を改善すれば解消するだろう。また、手順は適切でも現場が無視しているケースもありうる」と話す。

 ただし、天然ガスの漏洩にはもう一つの経路が考えられる。それは、水圧破砕法そのものがガス貯留層に亀裂を生み出し拡大している場合だ。メタンはこの亀裂から岩石層を通り抜けて上方に逃げ出すことができる。研究チームは、「可能性は少ないがゼロではない」としている。

 採掘業者はこの可能性を否定するが、ここで問題なのは、ガス鉱床と地下水の間に存在する岩石の性質が十分に分析されていない点である。どの州政府も、ガス会社に対して地質分析の実施を義務付けていない。

 一部の採掘業者は環境保護団体と協力して自主的に規制案をまとめ、州政府に提示している。他方、アメリカ環境保護庁(EPA)は、水圧破砕法が飲み水と地下水に与える影響について調査を続け、連邦レベルの規制が必要かどうか注視している。

 今回の研究で、天然ガス産業にとって良いニュースが一つだけあった。どのガス井においても、水圧破砕用の化学処理された水や、採掘後に生成される塩分を含んだ液体からメタン汚染の証拠が発見されなかったのである。

 メタンは、飲み水に関して規制対象となる汚染物質ではない。密閉空間で窒息や爆発の原因となることは知られているが、水の色や味、臭いを変化させるわけではなく、飲料適性に影響を与えるのかどうかもわかっていない。

 また、低レベルのメタン暴露が長期的に続いた場合に、人体へ現れる影響を分析した研究は一つもない。「健康への影響がわからないとは、驚くべきことだ。メタンは確かに飲み水に含まれている」とジャクソン氏は憂慮している。

 研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に5月9日付けで掲載されている。

Photograph by Wil Andruschak

文=Rachel Kaufman