細菌は40万Gの重力でも生き延びる

2011.04.26
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土壌中に生息する細菌、パラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)。左が通常の重力。右が実験室で高重力を受けた後。

Diagram courtesy Shigeru Deguchi et al
 タフであるために大きな体を持つ必要はないということが証明された。ある種の微生物は地上の40万倍という重力のもとでも生存できるという。 これに対して、ほとんどの人間は地表の重力(G)の3~5倍に相当する力を受けると意識を失う。

 日本の海洋研究開発機構(JAMSTEC)の生物学者、出口茂氏は、40万Gという極端な「高重力」は通常、非常に重い星の表面や超新星の衝撃波の中など宇宙環境にしか見られないと話す。

 出口氏の研究チームは、超遠心機と呼ばれる装置を使い、地上で高重力を作り出すことに成功した。

 研究チームは、人間の大腸菌(Escherichia coli)を含む5種の細菌を超遠心機にかけ、徐々に重力を高めていった。重力が増すにつれ細菌はかたまって粒状になったが、互いに強く密着させられても生育に支障はないようだった。5種とも、数千~数万Gの重力下で正常に増殖した。

 大腸菌と、土壌中によく見られるパラコッカス・デニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)の2種は、40万3627Gという負荷のもとでも生育した。

 微生物が高重力に耐える能力の一部は、その体の大きさとも関係していると出口氏は説明する。生物の体は、大きくなればなるほど重力の影響を受けやすくなる。人間のような多細胞生物の体は、ほんの何Gかの力で壊れはじめ、押し潰されてしまう。

 細菌が高重力環境に適していることには、生物学的な理由もあると出口氏は言う。人間の身体を構成する真核細胞と異なり、細菌の細胞は細胞小器官と呼ばれる特殊な構造を持たない。例えば人間や動物のDNAの大部分を収めている細胞核や、真核細胞のエネルギー生産工場であるミトコンドリアなどが細胞小器官だ。

 細胞小器官が高重力にさらされると、密集して「沈降」状態になりやすいと出口氏は説明する。細胞は、その重要な構成物が乱雑にぎっしりと積み重なった状態になると、基本的に機能を停止する。

「これに対して(研究で使われたような)原核生物の細胞には細胞小器官がなく、沈降の影響も小さい」という。

 さらに今回の研究結果は、細菌の中でも一部の種が他の種よりも高重力に強いということを示唆している。その理由は不明だ。「微生物の種類により高重力への耐性に違いがあるかどうかを言うためには、さらに研究を重ねる必要がある」と出口氏は話す。

 今回の発見は、地球上の生命の起源は古代に小惑星や彗星に乗って地球にやって来た微生物にあるとするパンスペルミア説の考え方と一致する。

 計算によると、古代に小惑星や彗星が地球に衝突した際に飛び出した宇宙由来の岩石の加速度は、最大30万Gに達したものと推定される。今回の発見から、そこに乗ってきた一部の微生物がそのような環境を生き延びた可能性が見えてくる。

 とはいえ、「どんなものであれ地球外生命が存在するというはっきりとした証拠があるわけではなく」、パンスペルミア説を裏づける確実な証明は存在しないと出口氏は話す。

 出口氏はさらに、今回の研究には、少なくとも微生物の形での地球外生命を探索できる対象範囲を広げるという幸運な成果もあった指摘する。例えば、木星型惑星と小型の恒星の中間の質量を持つ褐色矮星の表面重力は10~100G程度と計算されている。「太陽系外に生命が存在するとしたら、その生命は、これまで考えられてきた以外の場所で生存し、その環境を利用している可能性がある」。

 高重力についての研究の詳細は、4月25日に「Proceedings of the National Academy of Sciences.」電子版で発表された。

Diagram courtesy Shigeru Deguchi et al

文=Ker Than

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