肉を削ぐ未知の葬儀を発見、ヒマラヤ

2011.03.02
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ネパール、ムスタン地方の崖。浸食された壁面の洞窟から登山家ピート・アサンズ氏が頭骨を取り出した(2010年撮影)。

Photograph by Cory Richards
 2010年、ネパール、ムスタン地方の崖の壁面に掘られた人工洞窟から、太古の遺骨が27体分発見された。成人男女と子どもの骨には刃物の傷が残り、未知の方法で葬儀が行われていたらしい。 遺骨は1500年ほど前に高所の洞窟に安置されたと考えられている。7割弱の遺骨には肉を削ぎ取った痕跡があり、金属製のナイフが使われた可能性が高い。

 処理が済んだ後は、幅広の木製棚に丁寧に横たえられたと推測される。しかし十数世紀も経過しているため、発見段階で骨や安置棚は既に激しく損傷しており、洞窟自体もほとんど崩壊していたという。

 雑然とした洞窟には、ヤギやウシ、ウマの骨も散乱していた。死者への生贄と見られているが、その目的はいまだ明らかになっていない。

 問題の人工洞窟は、ムスタン北部の高緯度地方(アッパームスタン)の海抜4200メートル付近にある。赤みがかった崖の壁面に掘られており、当時は、露出した岩を足掛かりに、縄ばしごの助けも借りて登っていたと見られる。しかしその後は浸食が進み、今や熟練した登山家が頼りにされている。調査チームを共同で率いたピート・アサンズ氏は、7度のエベレスト登頂経験を持つ。

 同氏は現状について次のように発表している。「洞窟墓地は、硬軟入り交じった脆弱な岩石マトリックスのど真ん中にある。過去にも崩落しており、次のモンスーンにはもはや耐えられないと思う。危機的状況で、誰が掘ったのか、その時期を解明する糸口も消失寸前だ」。

 古代ヒマラヤでは、死者の肉を削ぎ取り、ムスタンの崖の高所に葬る“死の儀式”を行っていた集団が3つ存在していた。彼らについてはほとんど情報がないため儀式の意図も不透明だ。しかしチームは、食人の可能性を完全に否定している。

「肉が目的なら、遺骨の処理方法はまったく違っていたはずだ」と、カリフォルニア大学マーセド校の考古学者でプロジェクトを率いたマーク・アルデンダーファー(Mark Aldenderfer)氏は説明する。「食人の場合は、脳髄を取り出すために頭骨底部が砕かれている。他の骨も骨髄目当てに割られているのが普通だ。しかしそのような形跡はまったくなく、丁寧に扱われている」。

 骨格から抽出したDNAの予備分析から判断して、肉削ぎの儀式は血縁者を対象に行われていたと見られる。「洞窟墓地の多くは近縁者を含めた大家族が代々利用していたようだ。家族ごとに専用の墓地があったのだろう」とアルデンダーファー氏は推測する。

 死者の肉を削いで洞窟に葬るムスタンの風習は、既に知られている2種類の葬儀方法をつなぐ“ブリッジ”なのではないだろうか。

 1つは遺体を解体してハゲワシなどに食べさせるチベットの鳥葬で、ムスタンの数百年後に始まったと考えられ現在も続いている。チベット自治区は、洞窟墓地から16キロほどの距離にある。

 逆に溯ると、古代ペルシア(現在のイラン)にルーツを持つゾロアスター教には、古い儀式があった。それは死者の肉を削ぎ、動物に与える風習だとアルデンダーファー氏は語る。「ゾロアスター教の葬儀をアッパームスタンの古代人が取り入れ、その後にチベットの鳥葬へと形を変えた可能性がある」と同氏は指摘する。

 ヒマラヤ地域の諸言語を研究している人類学者のマーク・トゥーリン氏は今回の発表を受け、「興味深い話で、仮説としても有効だ」とコメントしている。

 この研究は、ナショナル ジオグラフィック協会の研究・探検委員会から一部資金援助を受けている。

Photograph by Cory Richards

文=Ker Than

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