ポリネシア伝統文化と近代科学を橋渡し

2011.02.25
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ポリネシア諸島、モーレア島の住民と科学者が、写真の一覧を見ながら島の生物のタヒチ語名をリストアップしている。

Photograph by David Liittschwager, National Geographic
 太平洋に浮かぶポリネシア諸島の一つ、モーレア島に住む老人は語る。「陸と海、それは分かちがたい。陸を苦しめれば海は悲しむ。海を追い詰めれば陸の我々に返ってくる」。 彼のような村人が持つ島と海の知識は世代を超えて受け継がれてきたが、その叡智はいまや西欧の近代科学の世界にも浸透し始めている。テ・プ・アティティア協会(Association Te Pu Atitia)のメンバーであり、カリフォルニア大学バークレー校のガンプ研究所(Gump Research Station)副所長でもあるヒナノ・ティーバイ・マーフィ(Hinano Teavai-Murphy)氏は、土着の知恵と近代科学を融合しようとしている。テ・プ・アティティア協会は、島の年長者と若者に積極的なコミュニケーションを奨励し、島で研究する科学者たちとの情報共有も目的とする地域密着型の非営利組織だ。

 マーフィ氏によると、年長者たちが育んできた自然界に関する知恵は科学の力で検証できる段階に来ているという。

「データは揃っている。我々はあらゆることを現地で学び体得した」と同氏は語る。「モーレア島の人々の話に耳を傾けない研究者は、自然資源の“有効な管理方法”を教え諭す姿勢から抜け出せない。地元の人々にとっては余計な御世話だったに違いない」。

「モーレア島周辺に新たに保護区域が制定されて漁業が制限された時も例外ではない。特に年長者の多くはそう感じていたはずだ」と、モーレア島の隣にあるタヒチの文化人類学者タマトア・バンブリッジ(Tamatoa Bambridge)氏は言う。「環境保全という名目で、我々は彼らの文化を台無しにしてしまうことがある」。

 その流れを断ち、文化的な“架け橋”を渡す試みとなるのが、前出のガンプ研究所などが主導する「モーレア・バイオコード・プロジェクト(Mo‘orea Biocode Project)」だ。微生物を除く島全体の生物種の遺伝子特性データを集め、タヒチ語やラテン語の名前から種を特定する。また、言語に頼らず種を特定できる遺伝子特性も活用する予定だという。

 自身でも先住民族の知恵を記録する2年間のプロジェクトを立ち上げたバンブリッジ氏は、「種の特定はモーレア島の生物多様性を解き明かすための重要な作業だ」と説明する。「生物多様性についてはいい加減な説も多いが、この地の豊かな多様性や、言語と文化から得られる叡智は確かだ。それにポリネシアには優秀な“専門家”が多い。住民たちから話を聞けば、自然界の仕組みを解明するヒントが得られる。単なるデータベースでは遠く及ばない価値がある」。

 バイオコード・プロジェクトの責任者を務めるニール・デービス氏によると、年配の住民との積極的なコミュニケーションが大切だという。「現場の人々と生物多様性との関連がわからなければ、施行済みの保護活動が失敗する可能性もある。生物多様性を維持するためには、文化的な多様性にも配慮しなければならない」。

 一方マーフィ氏は、「プロジェクトはモーレア島の年長者たちにとっても、生態系の広さを理解する助けとなる。自分たちも知らない生物が数多く生息していると気付き始めたようだ」とも語っている。

「住民たちは徐々にではあるが、島に腰を落ち着けた我々を信頼するようになった。ただ、彼らには搾取された忌まわしい記憶がある。協力関係の構築は決して簡単ではない」とマーフィ氏は話す。かつてやって来た大企業の幹部たちは、自然界や資源の採取方法に関する先人たちの知恵を聞いて回った。“タヒチ”という単語を商標登録した企業もあったという。

 森林伐採や農業生産の増加、沿岸部の開発、ラグーンに流入する土や堆積物の増加などの環境変化には関連性が指摘されているが、住民たちは既に気付いている。冒頭の老人はモーレア島を取り巻く環状道路に触れ、「15年間続く沿岸部の道路工事で自然がめちゃめちゃになり、サンゴ礁も掘り返されてしまった」と振り返る。全長66キロの道路は、陸と海をコンクリートで隔ててしまった。「なにが起きているか、海を見れば一目瞭然だよ」。

Photograph by David Liittschwager, National Geographic

文=Tasha Eichenseher in Mo‘orea

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