冬眠中のクマの驚くべき体内メカニズム

2011.02.18
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生後3カ月の子どもと冬眠中のクロクマ(資料写真)。

Photograph from All Canada Photos/Alamy
 新たな研究で、冬眠中のアメリカクロクマは体温をあまり低下させずに、代謝を大幅に落とせるという驚くべき事実が明らかになった。 北米に生息するこの哺乳類の冬眠期間は通常、約5~7カ月。冬眠中は食事や排尿、排便を一切せず、春になると巣穴から出て冬眠前と同じように動き回る。

 長期間に及ぶ“断食”を耐えぬくために、冬眠中のクマは代謝、すなわち食物をエネルギーに変える化学作用を低下させていることは以前から知られていた。

 しかし、クマもほとんどの動物と同様に、代謝機能を落とすためには体温を下げる必要があると見られていた。動物は体温が10度下がるごとに代謝機能が半減するというのが通説である。

 ところが今回の研究では従来の考えを覆す結果が示された。アラスカに生息するアメリカクロクマの冬眠中の平均体温は33度で、夏季の活動時と比べわずか5~6度低い程度にも関わらず、代謝を通常の4分の1にまで落とすことができるという。

 測定の結果、1分間の心拍数が通常の55回から9回にまで低下。拍動の間隔は20秒に広がることもあった。代謝を落とすと、酸素を全身に送る心臓の働きも下げられるためだ。

「我々が同じ間隔で拍動をしたら、まず間違いなく気絶するだろう」と、研究共著者でアラスカ大学フェアバンクス校の動物生理学者オイビン・ティエン(Oivind Toien)氏は述べる。

 ティエン氏らは、アラスカ州漁業狩猟省が最近捕獲した“お騒がせ”クマ4頭を研究目的で引き取った。人間の生活域に近づきすぎたクマは安楽死させるのが一般的だ。

 体温や心拍数などを測定するさまざまな装置を取り付けて、人口の巣穴で飼育した。巣穴は、フェアバンクス近くにある野生動物の生息地さながらの未開発森林地域に用意された。

 予想外の代謝機能低下を引き起こすクマの体内メカニズムは、依然として解明が進んでいない。しかし、ティエン氏はいくつかの推論を立てている。例えばマーモットに似た仕組みがあるのではないかという。マーモットは、冬眠中に消化器系を縮小させて代謝機能を調節し、春になると元に戻すことができる哺乳類だ。

「体温と代謝の独立した作用には驚かされた。アメリカクロクマには興味深い事実が尽きない」と話すのは、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校の生物学者ブライアン・ルーク氏。同氏はクマの心臓がどのようにして冬眠に耐えているのかを研究している。

 今回の研究で明らかになった、個々のニーズに合わせて体温を調節できる機能についてもルーク氏は言及した。例えば妊娠した雌のアメリカクロクマは、他の個体ほど冬眠中の体温変化の幅が大きくなかった。これは胎児を保護するためだと考えられる。

 ティエン、ルーク両氏は、クマの研究成果が人間に対しても実用的に応用できると強調している。「冬眠中の哺乳類の体内で起こっている作用の多くは、筋疾患や心臓病などの治療法に活用できるかもしれない」とルーク氏は期待を込める。

 例えば、少ない酸素でも生存できるクマの体内メカニズムがわかれば、脳への酸素の供給が一時的に遮断される脳卒中患者を救える可能性があるという。また、大幅な体温低下を招かずに代謝を調節できる仕組みは、効果的なダイエット方法の開発につながるかもしれない。

「冬眠する哺乳類の器官系のほとんどは、ヒトとは生理学的に大きく異なる。研究対象として非常に興味深い」とルーク氏は述べる。今回の研究は「Science」誌オンライン版に2月17日付けで掲載されている。

Photograph from All Canada Photos/Alamy

文=Christine Dell'Amore

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